走ること

百々面歌留多

走ること

最近、シャツがきつくなってきた。


凹んでいたはずのお腹はすっかり膨らんで、腹筋に力を入れても肉の重圧を感じざるを得ない。


過食と運動不足がたたったのは言うまでもない。近頃は休みの日にもほとんど屋根の下で過ごしてばかりだった。


少しは運動しないとな。


久方ぶりにランニングウェアを引っ張り出した。日が落ちてから、早速走ってみたところ、やはり前みたいな体の軽さを感じることは出来なかった。


ともあれ痩せなければならない。仕事のユニフォームもだいぶきつくなってきたし、このままではホックやボタンがつけられなくなってしまう。


暇を見つけては走り、息を切らす。調子と相談しながら、完全に手探り状態だ。


走るのは部活をしていた頃からの日課で、雨さえ降らなければ、必ず決めた距離をこなした。


あの頃は今に比べてずっと体力があった。疲れ知らずで、いつも元気だった。


決してあの頃に戻りたいというわけではないが、懐かしく思う。


自分は確かに命をかけていたんだなって感慨深くなるものだ。


試合の日、当時好きだった子が応援しに来てくれた。


彼女の声援は明らかに僕以外に向けられていたけれど、活躍するにはそれだけで充分だった。


まあ、弱小チームだから、勝利なんて夢のまた夢であったけど。


打ち上げ、楽しかったな。やっと解放されるって安堵感ともうこれで終わりかって虚しさが、胸を締め付けたのは、今でも思い出せる。


引退してからも走るのだけはやめなかった。今更だったし、それに受験勉強がキツくて言い訳が欲しかった。


走っていれば、汗といっしょに疲労も流れていった。


今は昔のことを思い出してばかりだけれど。


そのうちまた前みたいに走れるよう勘を取り戻したいところである。


今度は食欲ともきっちり相談をして、2度と同じ轍を踏まないようにしなくては。


街灯がこうこうと照らす曲がり角に向かって、僕は精一杯腕を振った。
















  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

走ること 百々面歌留多 @nishituzura

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ