第154話

 リッジベルまでは車で行けば二十分ほど。近くはないがそう遠い距離でもない。

 勿論、そう簡単にことは進まない。


「前方より民生用ロボットの集団が押し寄せてきます。数は30以上!」

「なかなかの数だな。民生用とはいえ数が揃えば侮れんか」

「隊長、出撃しましょう」

「分かっているさ。ケヴィン曹長、シャッターを開けてくれ」

「了解です」


 すぐにシャッターが開き、俺と隊長はそれぞれ自分の愛機を出撃させる。大量のロボットの集団が前方から押し寄せてくるのが見える。


「こうしてみると壮観だな」

「余裕がありそうですね隊長」

「そうでもないさ。そろそろ火器の残弾も気になる頃だ。なるべく消耗を抑えていきたいからね」

「リッジベルの敵はこんなものじゃないということですか?」

「ここまでに出会った敵を考えれば確実にWPー03Aかそれに匹敵する敵が出てくるだろうからな」

「……そうですね」


 隊長の言葉に疲れを隠さずに答える。その可能性が一番高いのだけど、そうなって欲しくもない。いい加減に共和国軍の機体を持ち出すのは勘弁してもらいたいのだけど。

 隊長は俺の声を聴いて苦笑いする。


「まあ、そう疲れたような声を出すなナオキ曹長。相手が何を持ち出して来ようと、我々には戦うしか道はない。スペクターや『尻尾付き』が出てこないだけありがたいと思わねばな」

「そっちはそっちで嫌ですけれどね……隊長、先制攻撃を決めるべきではないですか?」

「分かっている。これから集団の前方中央に向けてミサイルを放つから、着弾を確認したら打ち漏らしたロボットを撃破していくぞ」

「了解!」


 その言葉から間を置かずに隊長のWPー03ADから二発の小型ミサイルが発射されてロボット集団の先頭二機に命中する。そのうち一機は勢い良く吹き飛び後続の数機をなぎ倒しながら転がっていき、もう一機は吹き飛びこそしなかったものの半壊してその場で機能停止し進路を塞ぐ。

 それを確認すると同時に俺とエクリプスは隊長たちより一歩早く踏み込み、突っ込んでこようとするロボットに強烈な右のボディブローを打ち込む。一撃を食らったロボットは機体に穴が空くほどのダメージを受けて横倒しになる。

 エクリプスは素早く機体を横に引き、そこに隊長の03ADが追撃のミサイルを打ち込み、足を止められたロボット数機をまとめて吹き飛ばす。

 横に引いたエクリプスは腰に下げてあったハンドガンを取り、反対側から抜けようとしていたロボット達に打ち込み移動を妨げる。


「ナオキ曹長、しばらくの間防いでいてくれ。こちらの流れが落ち着いたら直ぐに行く!」

「了解!」

「無理はするなよ」


 隊長とやり取りを交わしている間にも敵は迫ってくる。

 ハンドガンによる足止めを潜り抜けてきたロボット一機をエクリプスは無造作に蹴り飛ばす。

 民生用ロボットの全高は二メートルそこそこで細身なものも多いが、エクリプスはその倍近くの大きさがあり重厚なボディを持っている。一対一の格闘戦ならよほどのことがない限り負けはしない。

 蹴り飛ばされたロボットは片腕がもげて転がっていく。か、その隙を衝いて別なロボット一機が工業用バーナーをこちらにかざしながら突進してくる。流石にあれを受けるとまずいが、かと言って何も考えず横に交わせば隊長やケヴィン曹長が危険になる。

 一瞬考えてから、後ろに下がる。当然ロボットはそのまま追撃してくるがこれは誘いである。

 下がった先にあるのは最初の攻撃で半壊し機能を止めたロボットの残骸。これをサッカーボールの要領で迫ってくる相手に向けて蹴り飛ばす。

 目論見はうまく行き、迫って来ていたロボットは蹴り飛ばされた残骸にまともにぶつかって押し潰されてしまう。

 左腕がないので格闘戦は多少もどかしいところもあるのだが、そんなことも言っていられない。またしても接近してきたロボットをパンチの連打で吹き飛ばして間合いを取る。

 その後も残骸を利用しての格闘戦で次々に押し寄せるロボットたちを翻弄しているうちに、隊長がこちらに合流し、一気に撃破のペースが上がる。

 03ADがスタンロッドで最後の一機を仕留めたとき、周囲には残骸の山が出来ていた。


「片付きましたね」

「うむ、少々時間を取られてしまったが……」

「それにしても、これだけの数のロボットが失われてしまっては、市民生活への影響は避けられそうにありませんね……」


 周囲の残骸を眺めながら顔をしかめる。状況的にやむを得ず壊したとはいえ、損害の大きさを考えると憂鬱なことしか浮かばない。

 当然だがロボットは失われた分が即座に補充される訳ではない。原材料を揃え、工場で生産し、それを購入せねばならない。資金とエネルギーがどうしても必要になってくる

 しかし、今は革命評議会との内戦の最中である。工業資源の多くは軍需工場に回されていて、民生用ロボットの生産に回す余地は少ない。その間市民の生活は窮乏し、もともと乏しいリヴェルナ共和国の国力は削がれ続けていく。

 この戦いを一刻も早く終わらせねばならないのは当然だが、終結させたとしても待っているのは茨の道なのかも知れない。

 隊長も何かしら思うところがあるのか、しばらく静かに残骸を眺めていたが、やがて表情を引き締めて口を開く。


「……とにかく今は先を急がねばな。ナオキ曹長、道路を塞ぐ残骸を処理したら、機体を収納してリッジベルへ向かう」

「了解」


 それぞれのWPで残骸を道の両側に片付けると俺達は先を急ぐ。これ以上の妨害を受ける前に決着をつけねばならない。

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