第143話

 隊長たちの無事を確認してほっとする間もなく、俺は二機のWP-02FAを見据える。流石に不意打ちからの立ち直りは早く、銃口をこちらに向けようとしていたので深追いはせずにエクリプスを素早く後退させる。

 迂回して移動している最中に聞こえた爆発音はどうやら四本脚の機体のものだったようで、機体の残骸が転がっていた。隊長たちが片付けたのだろう。残るはあの士官服の男だけである。

 と、そこで隊長は士官服の男に声をかける。


「さて、これでWPの数は互角になったわけだ。もっとも、操縦者の数ではこちらが上回っているわけだから、こちらの方が優位だな。投降するならば今のうちだぞ」

「……私がこの程度で貴様らに屈するとでも思ったのか、ジェノ・トラバル! ナオキ・メトバからと思ったが、まずは貴様から葬ってやる! 攻撃を開始しろ、02FA!」

「……やらせるか!」


 ジェノ隊長の投降勧告を拒否した士官服の男は02FAに攻撃を仕掛けさせようとするが、それよりわずかに速くケヴィン曹長のスペクターが02FAに向けてマシンガンを撃ち込む。

 02FAは銃弾にさらされながらも怯むことなくスペクターへ向けてロケットランチャーを発射しようとするが、今度はジェノ隊長の03ADから肩部のミニミサイルによる攻撃を受けてしまう。一機はミサイルを回避したもののもう一機は回避し切れずに左腕を吹き飛ばされてしまう。戦闘力こそ失っていないが、ダメージは小さくないはず。

 隊長とケヴィン曹長が02FA二機と戦闘を繰り広げる中、何故か士官服の男は自身の側にいる03AACを動かそうとしない。数の上で互角とはいえ、今のエクリプスは戦闘力をほとんど失っている状態である。ここで03AACを動かせば状況を動かす力になりそうなものなのだが。

 俺は戦闘から少し距離を取りつつそんなことを考える。流石に火器の撃ち合いの中で今のエクリプスを動かすのは無理がある。先程は完全な不意打ちで撃たれるより早く後退できる見込みがあったから仕掛けたけれど、士官服の男も奇襲を二度受けてくれるほど愚かでもないだろう。今はとにかく状況を見守ることしかできそうにない。

 と、そこに音声での通信が入る。


「ナオキ、そのまま後退するとと危険だぜ。逆側から回り込め」

「ジャック? どこにいるんだ?」

「基地の入口側だ。気付かれるからあまり大声を出したりするな」


 声に従って機体を操縦しつつ基地の入口方向に視線を向けると、倒れている反乱部隊側のWP-02FAの側に座り込んでいるジャックの姿があった。手元にはモニターが設置されている。


「何をしているんだ?」

「ちょっとこいつらからデータを抜き出したところだ。役に立つデータが埋まっているかも知れねえからな」

「てっきり自分の機体の修復でもしているのかと思ったよ」

「馬鹿野郎。俺だって軍人だぜ? 何度も我を忘れたりしねえよ」


 ジャックは苦笑いを含んでいるような声で答え、それを聞いた俺は少しだけ安心し意識を戦闘に引き戻す。


「それで何かわかったのか、ジャック」

「ああ。俺たちは最初こいつらを基地からの遠隔操縦だとばかり思っていたが、実際のところは無人機だ。ケーブル接続部に通信用プラグじゃなくて制御用メモリーが刺さってやがった」

「何だって!」

「あの野郎、隊長の言う通り反乱部隊の連中を良い様に利用しておいて、自分の目的が達成出来たら連中を捨てるつもりだったに違いねえ。汚い野郎だぜ」


 ジャックの憤る声を聴きながら俺はジャックに尋ねる。


「今戦っている連中もそうなのか?」

「そこまでは分からねえな。どこかから遠隔操縦している形跡はねえから、その可能性は高いだろうな。ま、隊長に言わせればあいつがTRCSを使っているというのは出鱈目らしいけどよ」

「そうか……ありがとうジャック」

「気にすんなよナオキ……それより今ならバスターソードを回収できるぜ」


 ジャックのその言葉にはっとなる。確かにバスターソードは先程03AACが取り落とした時の状態のままその場に転がっている。

 左腕が動かない以上まともに構えることは出来ないが、それでも使い方次第では充分に役に立つ。

 念のため士官服の男と隊長たちの戦闘の様子を確認すると、隊長たちが優勢に戦闘を展開しているがまだ02FAの撃破には至っていない。そして、士官服の男も未だに残る03AACを動かそうとしていない。

 まだ戦いの流れは定まっていない。それならば流れを変えるきっかけを作ればいい。俺とエクリプスはそのきっかけを作れる立場にある。

 考えをまとめてうなずくと、ジャックに通信を入れる。


「ジャック、バスターソードの周囲に地雷があるかどうか、という情報は分かるかい?」

「勿論だぜ。そもそもそのために俺が同行していた訳だしな」


 ジャックが返事を返してくれるまでに時間はかからなかった、


「そこから最短経路で行くと地雷に引っかかる。今そっちにその周辺にある地雷の位置を転送してやるから待ってろ」


 すぐに地図が転送されてくる。地図上に描かれている地雷の位置は六つ。そのうち一つがバスターソードとの進路上に存在している。そのまま突っ込んでいたら引っかかっていたところだ。

 ジャックからの情報に感謝しつつエクリプスとともにバスターソードの回収に向かう。地雷の位置が分かっている以上移動の不自由はない。

 だが、士官服の男はこの動きを見逃してはくれなかった。男は目の前の戦闘を注視しているように見えて、実際はずっとエクリプスの動きを監視していたのかも知れない。


「……そこで何をしている、ナオキ・メトバ!」


 士官服の男の声と共にWP-03AACが動き出した。

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