第142話

 士官服の男のその言葉にジェノは眉をひそめる。


「……何が言いたい?」

「我々は時が満ちるのを待ち望み続けてきた、ということだ。これ以上を貴様に言う義理はないし、その必要性も感じんな」

「知りたければ、自分で何とかしろ、ということか」

「その通りだ。もっとも、それは出来ない相談だがな!」


 士官服の男が片手を振り上げる。その視線の先にはエクリプスを追跡していたWP-02FA二機の姿があった。

 それを見たケヴィンが唸る。


「まさか、ナオキ曹長を……?」

「そうだ……と言いたいところだが違うな。奴め、どうやら尻尾を巻いて逃げていったらしい」

「何っ!」

「ほう、それは何よりだ」


 殺気立った表情を浮かべるケヴィンに対し、ジェノは安堵の表情を浮かべる。ジェノの余裕ある態度が気に入らないのか、士官服の男は苛立たしく肩を震わせた。


「自分の部下が逃げたというのに随分と余裕じゃないか、ジェノ・トラバル?」

「私は部下を犬死させるのが嫌いでね。部下が逃げてでも生き延びたというのは非常に喜ばしいことだよ」

「……」

「それにだ、ナオキ曹長とエクリプスには今後成してもらわねばならない事が山ほどある。貴様の人形遊びごときに付き合って失わせるわけにはいかんのでな」

「人形遊びだと!」


 ジェノの言葉に士官服の男は両目をつり上げる。


「この私を愚弄するつもりか!」

「だが、それは事実だろう。ナオキ曹長にはTRCSを使っていると言っていたみたいだが、貴様ごときにあのシステムが操れるわけがない。百歩譲って操れたとしても、異なる機種を三機同時に操るなど不可能だ」

「何が言いたい、ジェノ・トラバル!」

「貴様がTRCSで操っていると見せかけていた三機の内少なくとも二機は人工知能で制御された贋物フェイクに過ぎないと言うことだよ。あるいは三機全てがそうなのかもしれないがね」

「馬鹿げたことをいう……」


 ジェノの言葉に士官服の男は顔を真っ赤に染めて激怒しているが、ジェノは涼しい顔でそれを眺めている。そこでケヴィンが口を挟んだ。


「隊長、どういうことですか?」

「一言でいえば、操縦の仕方が違いすぎるということだよ、ケヴィン曹長。ナオキ曹長のTRCSは思考を直接機体に伝える装置で、その取扱いには細心の注意が必要だと本人やエレイアから聞いている。実際、最初の頃は良く誤動作を起こしていたらしい」

「それが違いに繋がっていると……?」

「ケヴィン曹長、君も見ていただろう。奴が大声で指示を出す様を。あそこからして私の抱くTRCSのイメージとは違う。TRCSで操縦しているのなら、あのような大声を出さなくともWPは動かせるはずだし、何より行動の指示など不要のはずだ。何しろ思考したら動くのだからな」

「あっ……」


 ジェノの話を聞いたケヴィンははっきりと驚愕の表情を浮かべる。


「大体、思考で全てを動かせるとして三機分の操縦をどうやってこなすつもりなのか。三機すべてが同じ機種で全てに同じ動作をさせるならまだしも、02FAと03AACでは機体のサイズや装備からして違う。それらを全て一人の人間の思考で操ろうなどというのは常識的な発想ではあり得ないだろう」

「じゃあ、ナオキ曹長は……」

「まんまと奴の口車に乗せられてしまったというわけだ。もっとも状況が状況だったからね。すぐにそれを見抜けなかったからとナオキ曹長を責める訳にもいくまい」

「……言いたいことはそれで終わりか、ジェノ・トラバル!」


 ジェノがひと通り話し終えるのと同時に、士官服の男が殺気立った声をジェノとケヴィンにぶつける。


「……貴様らは自分の立場が分かっていないようだな。私がどうであろうが数の上ではまだこちらが優位なのだぞ」

「……やるのならさっさとやればいいのではないか? 別に声を張り上げる必要もなくこちらに攻撃を仕掛けることなど貴様には簡単だろう?」

「……チッ、こちらが手加減をしていればいい気になりおって……貴様らなどこの場で皆殺しだ!」

「そう貴様の思い通りに事が進むと思うなよ……!」

「それはこちらの言う台詞だ! ……02FA、やれ!」


 士官服の男が出した指示に反応するように02FA二機がジェノ達に向けて銃口を向ける。そして、そのままジェノ達に向けて攻撃を仕掛けようとするが、その時02FAの横手から黒色の大型WPが高速で接近しそのまま02FDに体当たりを仕掛けた。

 体当たりを回避し切れずまともに受けた一機は横にいたもう一機共々位置をずらされ、ジェノ達に向けて放たれるはずだった銃弾は空しく空を切る。


「隊長、ご無事ですか? ケヴィン曹長も……」

「やはり来たね、ナオキ曹長。そちらこそ無事で何よりだ」

「ナオキ曹長、無事でしたか」」


 ナオキの登場にジェノは納得したように小さく頷き、ケヴィンはほっとした表情を浮かべた。


 ここから時は今と重なる。

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