第144話

 「ナオキ、急げ! 向こうに気付かれた以上もたもたしていられねえぞ!」

 「わかってる!」


 バイザーディスプレイに表示されている地雷の位置と迫ってくるWP-03AACの動きの双方を確認しつつ、バスターソードの落ちている場所へと急ぐ。


「私がそれを見逃すと思ったのか、ナオキ・メトバ!」


 士官服の男の言葉と共にWP-03AACが直線的な動きでエクリプスに向かってくる。士官服の男はやはり機体には同乗していないが、位置取りを基地の入口寄りに変えているように見える。恐らくは状況を把握しやすくするのと、いざという時に基地内へ逃走を図るためだろう。


「残骸に隠れている、そこの貴様も目障りだ! ナオキ・メトバ諸共地獄へ沈んでもらおうか。撃て、WP-03AAC!」


 士官服の男の言葉にWP-03AACは移動体勢のまま残存する火器をこちらに向けて発砲してくる。

 背後から轟音と共に降り注いでくる弾丸の雨に、思わず反転して応戦したい欲求に駆られるが、聞こえてくるジャックの声がそれを押しとどめる。


「奴に構うんじゃねえナオキ! ろくに腕を動かせねえ上に丸腰のエクリプスで何が出来るんだ! せめて武器ぐらい持って戦いやがれ!」

「ジャック」


 ジャックの言葉に続いて、ジェノ隊長とケヴィン曹長の声も聞こえてくる。


「ジャック曹長のいう通りだ、ナオキ曹長。奴へのけん制はこちらからでも行える。君はまず戦うための力を取り戻すことが先決だ」

「仲間を守ろうとして自分が死んでは自己満足で終わりですよナオキ曹長。全員で任務は果たし生き残ろう、というのがノーヴル・ラークスのやり方のはずです」

「……了解!」


 三人からの激励に応えるようにエクリプスのブースター出力を更に上昇させて先を急ぐ。地雷の設置されている領域ももうじき終わる。ここは拙速な反応ではなく、自分の与えられた役割を着実に果たさなければならない局面だ。

 こちらが攻撃を気にせず先を急ごうとしているのを感じ取ったのか、士官服の男が苛立ちを隠さずに怒鳴り声を上げる。


「無駄なことだ、ナオキ・メトバ! エクリプスがその状態ではバスターソードの元へ行っても持ち上げられまい!」

「ナオキ曹長のことより、自分の心配をしたらどうだ。ご自慢のTRCSで操縦している02FAは大分こちらに押され気味のようだが」

「……貴様らなど最初から眼中にない……!」


 ジェノ隊長の煽りを含んだ言葉に士官服の男は苦しげな返しで応えるのを聞きつつ、俺とエクリプスはようやく最後の地雷をかわしてバスターソードの下へ辿り着く。

 勿論、士官服の男が言っている通りそのままでは持ち上げられないし、構えも取れない。

 だが、やりようはある。まず、隙を見せることになるのは承知の上でエクリプスの両脚を折り畳みその場に座り込ませる。座るというよりは伏せるという方が姿勢的には正しいだろうか。

 完全に脚部を畳み切ったところで、上体を倒して稼働できる右腕を動かしバスターソードのグリップを掴ませる。動くとはいえダメージを負っている右腕にはきつい負荷だがやむを得ない。

 右手にバスターソードがしっかりと握られたことを確認して、俺はエクリプスを立ち上がらせる。バスターソードは持ち上げられずに引きずるような格好になっているが戦闘で使う分には問題ない。あの士官服の男を無力化してしまえばラグート基地での戦闘も終わるのだから、二回程度バスターソードを振るえる状態ならばそれで構わない。

 その間も03AACからの攻撃は飛んできていたが、隊長の言葉通り士官服の男はかなり押し込まれていて、二機の02FAは二機とも撃破の一歩手前の状態に見える。

 それでも、士官服の男は03AACの動きを止めずにこちらへ攻撃を仕掛けてくる。その動きには凄まじいまで執念を感じずにはいられない。


「もう止せ。お前に勝ち目はない。大人しくWPを止めて投降しろ」

「戦いの勝利など私にはどうでもいいのだよ! 貴様を倒す、それこそが私の役割だ」

「何故だ、何故そこまで俺を……!」

「ナオキ曹長、どうやら今の奴にそれを聞いても無駄らしい。君の手で03AACを倒して、奴を完全に無力化するしかなさそうだ」


 俺の言葉を士官服の男は一笑に付し、それでも問いかけ続けようとしてジェノ隊長にそれを止められる。


「隊長……?」

「……君を狙う理由は私にも分かりかねるが、奴を倒さねばここでの戦闘は終わらない。そして、奴の戦意を喪失させて降伏を促すには君が奴の03AACを倒すしか方法がないようだ」

「どうやらそれしかなさそうだぜ、ナオキ。奴は狂ってねえがまともでもねえ。望み通り、真っ向勝負でぶっ倒してやれ!」

「まぁ、たとえ不覚を取ったとしてもちゃんとフォローはさせてもらいますから、前のめりにならずに戦ってくださいよ? ナオキ曹長」


 ジェノ隊長、ジャック、ケヴィン曹長の順に言葉を投げかけられた俺は小さく呼吸を整えると静かに頷き、士官服の男に大声で告げる。


「行くぞ! これで決着をつける!」

「ハッ! 貴様で私に勝てるものか!」


 俺と士官服の男は同時に自分の機体を正面から突っ込ませる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る