第141話
再び、少し時を巻き戻す。
その頃、ジェノ・トラバル隊長率いるノーヴル・ラークスは士官服の男の前に陣取る四本脚の機体と交戦を開始していた、
まずジェノが機先を制して肩部のロケットランチャーを四本脚の機体に向けて発射し、それに対して四本脚の二機は左右に回避しながらジェノのWP-03ADに
「隊長! そいつは……!」
「……なるほど、だが……!」
ジャックの言葉を受けたジェノは03ADをやや後退させつつ、装備されている大型シールドを地面に突き立てて四本脚二機の攻撃を受け止める。バチッ、という乾いた音が響くがジェノと機体に異常はない。
「隊長、ご無事ですか?」
「ああ、私も機体も無事だよ。だが、一機だけだと少々骨が折れそうな相手のようだね。ナオキ曹長が苦戦するわけだ」
心配そうなケヴィンの声に応じつつも納得したような表情でジェノは語る。その間にも四本脚二機は徐々にジェノ達との間合いを詰めてくる。
「どうしますか、隊長?」
「仕掛けるよ、ケヴィン曹長。少なくともどちらか片方、出来れば両方とも今のタイミングで仕留めたいね」
「だけどよ、言うほど簡単でもなさそうだぜ、ジェノ隊長?」
「やれるさ。数で言えば二対二で互角なのだからね。それに我々のメインディッシュはこの先だ。前菜で手間取るわけにもいくまい」
二人の部下からの問いかけに答えながら、ジェノはちらりと四本脚の機体の向こうにいる士官服の男を見やる。男は険しい表情でナオキ達が向かった方向を睨みつけている。先程までの様に大声で指示を飛ばしたり、こちらに注意を払ったりもしない。
ジェノは意識を四本脚の二機に戻す。適度に間合いを調節してはいるものの、このまま接近されてしまうのは少々具合が悪いように思われた。そこでジェノは決断し、スペクターを操縦しているケヴィンに指示を出す。
「ケヴィン曹長、左手側にいる一機に集中攻撃を仕掛けるぞ。私とタイミングを合わせてくれ」
「損傷のある右手側の敵ではないんですか?」
「それはこちらの戦力が乏しい場合だ。五分以上ならば五体満足な相手を潰して後の有利を取るべきだろう」
「了解しました」
ケヴィンの返事を確認したジェノはスペクターに同乗しているジャックにも指示を出す。
「ジャック曹長、そろそろいいだろう。君はあちらに向かってくれ」
「俺が抜けて大丈夫かよ、隊長?」
「そうしなければ君をここに連れてきた意味がないよ」
「隊長もああいっていますからさっさと降りてください。このままだとあの四本脚の的にされるだけですから」
ケヴィンのその言葉にジャックは鼻を鳴らす。
「……俺が降りてもスペクターの動きは軽くならねえぞ?」
「同乗しているだけの仲間が一方的に攻撃されるのを見るのは、操縦者としては耐えられませんので」
「相変わらず口の減らねえ野郎だぜ。……やられたら承知しねえぞ」
「そちらこそ手早く済ませてくださいよ。一応こちらの勝利の鍵なんですから」
「ああ、テキパキと済ませてやるよ」
お互いに言いたいことを言い合ったケヴィンとジャックはお互いの拳を軽く突き合わせて武運を祈り、ジャックはスペクターから降りると後方から右手側に回り込むように駆け出していく。
それを見ていたジェノは二人の様子に満足げに頷くと、表情を引き締め直してケヴィンに指示を出す。
「よし、仕掛けるぞ、ケヴィン曹長」
「了解です隊長」
ケヴィンが答えるのを確認してからジェノは03ADを動かし、右手で盾を持たせつつ今度は両肩のロケットランチャーを用いて攻撃を仕掛ける。ケヴィンもスペクターの固定式マシンガンで援護射撃を行う。
二機からの攻撃に対して狙われた四本脚の機体は回避行動を取ることなく加速しながら前進してきたものの、丸い頭部と胴体の双方にロケット弾の直撃を食らって後方に吹き飛び横転してしまう。
頭部を吹き飛ばされながらも四本脚の機体の制御はまだ健在でなおも動こうともがいていたが、その脚部の構造上横転すると自力では立ち上がることが出来なかった。ジェノの03ADから破損個所に機関砲の連射を受けた四本脚は遂に沈黙する。
残された脚を一本失っている機体はケヴィンの操るスペクターのけん制攻撃に足止めをされていたが、僚機が全て破壊されたのを感知したのかその場で動きを止めてしまう。
「隊長……?」
「気にするな。奴が次の行動に入る前に仕留めるぞ」
怪訝そうな表情を浮かべるケヴィンにジェノは攻撃を続行するよう促すが、その時動きを止めていた機体の脚部が展開し、内蔵されていた棘状のパーツがせり出してきた。そして、パーツの展開が完全に終わると同時に再起動した三本脚の機体は、尋常ではない速度でスペクターに突進を仕掛ける。
「ぐっ……!」
「いかん……! ケヴィン曹長!」
ケヴィンのスペクターは半ば不意打ちに近いその攻撃を辛うじてかわしたものの、三本脚の方はかわされた後もすぐに体勢を切り替えてスペクターに再度突進してくる。ジェノは03ADに手持ちのマシンガンでけん制攻撃を仕掛けるが、三本脚の機体はそれを無視してスペクターの身に狙いを定めて攻撃を仕掛けている。動きが止まらない。
(くっ……このままではケヴィン曹長が危ない……!)
ジェノは03ADの大型シールドを機体正面に構えさせると、三本脚の機体がスペクターに突進を仕掛けるタイミングに合わせて体当たりを仕掛ける。
鈍い金属音が響き、03ADと三本脚の機体は機体を接触させたまま十メートルほど移動する。シールドに棘状のパーツが刺さってしまった三本脚の機体はなおもスペクターに向かおうと暴れるが、ジェノは懸命な操縦でそれを抑える。
しかし、そこで再び三本脚の機体は動きを止める。突然のことに嫌な予感を察知したジェノは03ADにシールドから手を放させ、その場から俊敏に離脱する。
ジェノと03ADが充分な距離を確保した丁度その時、破壊されたものを含めて四本脚の機体全機がその場で自爆した。凄まじい轟音が周囲に響く。
窮地をジェノに救われたケヴィンがジェノに合流する。
「ジェノ隊長、ありがとうございました」
「礼は後回しだ、ケヴィン曹長。……ここからが本番だ!」
未だ爆発の余韻が抜けない中、ジェノはケヴィンの方を向かずに一点を見つめている。その視線の先にいたのは士官服の男だった。
士官服の男は自身のWP-03AACに既に火器を構えさせている。
「フン、中々やるようだなジェノ・トラバル。あのイルベガンを倒すとは」
「……イルベガン? それがあの機体の名前か?」
「サヴィテリアも愚かだな。あんな玩具で我々に勝てると思っていたのか」
「サヴィテリア連邦が革命評議会に協力しているというのか?」
「……なんだ、そんなことも知らずに今まで戦ってきたのか、貴様らは。これは傑作だ……!」
ジェノとケヴィンの問いかけを聞いた士官服の男は嘲笑する。
「答えろ! ……サヴィテリアは革命評議会に協力しているのか?」
「……何故、ベゼルグ・ディザーグは我が国にのこのこ帰ってきたと思う?」
士官服の男はケヴィンの問いに直接答えず、ジェノに視線を向ける。
「何か言いたそうだが、一つだけなら質問に答えてやらないこともない」
「どういう風の吹き回しかな?」
「なに、イルベガンを倒した褒美みたいなものだよ、ジェノ・トラバル」
「そうか、ならお言葉に甘えさせていただくとしよう」
それを聞いたジェノは真っ直ぐに男の顔を見据えて言い放つ。
「貴様は……いや、貴様たちは何者だ?」
ジェノの問いに対し、士官服の男が発した答えは簡潔だった。
「リヴェルナだよ、ジェノ・トラバル」
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