第47話

 先手を取ったのはやはり僕の方だった。

 エクリプスは滑らかな動きでマシンガンを掃射し、相手の動きを封じようとする。コンソールは動かしていない。新型のシステムがちゃんと動作するのか、まずは確認したい思いがあったからだ。

 相手側は僕がコンソールを動かしていないのを見て軽く驚いたようだったが、冷静にやや後方に下がって間合いを確保しようとする。

 僕はマシンガンをもう一掃射してその動きを抑えつつ、エクリプスを前に押し出し始める。お互いに有線での操縦である以上、流れ弾を当ててしまう可能性があるマシンガンはけん制でしか使えない。決着をつけるには接近戦を仕掛けるしかなかった。

 問題は、いかにして自分の有利な形でその状態に移行させるかである。

 相手も同じことを考えているのか、03Aにマシンガンを巧みに使わせて、僕の望むリズムで間合いを詰めさせることを許してはくれない。




 僕はここから先の思い描くイメージを頭の中で完成させた。

 すると、エクリプスは敏感に反応した。僕は動き出すまでの一瞬の間に機体の脇に備え付けられたステップに飛び乗る。

 僕はエクリプスの前進を一旦止めて左横に動かす。ブースターも使用して一瞬で相手側へ切り込んだ。

 相手側は意表を突かれたようだったが、その後相手もステップに飛び乗って03Aにジグザグな動きをさせて、こちらの接近を回避しようとする。ブースターの出力は似たようなものだったが、機体が小柄な分03Aの方が若干効率は良いようであった。

 このまま翻弄ほんろうされ続けるわけにもいかない僕は、ある程度の危険を覚悟でエクリプスを真っ直ぐ突進させる。

 向こうは動きを見つつ機動力を生かしてこちらかわそうとするも、僕とエクリプスは相手の動きの変化に柔軟に、そして即座に反応して相手を追い詰める。

 その間僕はエクリプスのステップ上で急加速と急減速に体を揺さぶられていた。ただでさえ新型システムの操作に意識を割く必要があるのにこれは正直きつかったが、唇を噛み締めつつ何とかこらえて相手を見る。

 相手の方もこのままでは危ないと踏んだらしく、動くのを止めてメタルナイフを構えてこちらを待ち受けていた。

 僕もエクリプスにナイフを抜かせて構えを取った。こちらから仕掛けるつもりはない。反応はこちらの方が早い以上、自分から仕掛けるより相手に動かせてそれに対応した方が安全である。しかし、相手も同じことを考えているならば、決して動こうとはしないはずだった。

 僕はそこまでを頭で計算した。果たして、相手も同じ考えだったようで、ナイフを構えたまま動こうとしない。




 お互いに動きを止めたまま、一分強ほど過ぎただろうか。

 このままではらちが明かない。しかし。無策で動くわけにもいかない。

 僕はこの状況を打破するためにある手を使うことに決めた。

 シミュレーションの最中に自然と気付いたやり方だが、現実でやるのには躊躇ちゅうちょしていたのだ。

 だが、ここまでの戦いで大体エクリプスに搭載された新型システムのくせみたいなものはつかんでいた。それを考慮に入れて動けば、誤動作を起こす危険はまずないと思えた。




 僕は静かにコンソールを構える。普通なら新型システムを用いている限りコンソールは必要ない。ちらりと横の様子を見ると、ニデア大佐は僕の方を見て不満そうな表情を浮かべている。

 だが、僕は別にコンソール操縦に完全に切り替えるつもりはない。

 相手も僕がコンソールを構えるのを見て、相手側もコンソールを構えて身構えるが、僕はそれを待っていた。

 僕はエクリプスを突進させた。直線的な動きだった。

 相手側はと咄嗟にエクリプスの突進を回避しようと03Aを横に退避させようとするが、僕はその間にコンソールを入力し突進するエクリプスの右手だけを動かしてナイフを相手に投げつけた。


「!!」

「ほぉう!」


 相手の動揺する気配とともに、ニデア大佐の感嘆の声が響く。

 相手側は僕の動きに対応しきれずナイフを左手側に食らってしまう。

 その間にも僕は動きを止めない。相手の動揺を逃さず、僕はエクリプスに03Aとの間合いを詰めさせると格闘戦を仕掛ける。

 まず相手の右手を狙って鋭いチョップを放つ。相手がそれを手を振り上げてかわそうとするのを、今度はコンソール操作で左手を動かし相手に刺さっていたナイフを回収させ、一歩だけ後退させる。

 流石に相手側もやられっ放しではいられないのか、先読みに近い形でこちらに一歩分踏み込んできて右手のナイフを突き立てようとしてくる。

 僕はすかさずシステムを用いて逆にこちらから一歩間合いを詰めさせている間にコンソール入力を利用して左手のナイフで浅く薙ぎ払い相手の足を止める。




 この時、僕はシステムとコンソール入力を同時に行っていた。思っただけでシステムは動くが、それに対してコンソール入力はどうしても行動が遅くなる。が、それなら思考し動いている間にその次の動きをコンソールで入力しておき、コンソールの指示で動いている間に次の指示を思考するといった具合に次々と入力を繰り返せば、理屈の上ではほぼ絶え間なく、僕の思考と認識能力の及ぶ範囲内でならば動き続けることが出来るはずだった。

 僕はシミュレーションの途中で速くなる一方の敵に対処するために自然とこのやり方に行き着いた。ただ、シミュレーションでできたからと言って現実でできるとは限らない。だから、ぎりぎりまでこのやり方を出すのをためらっていたのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る