第39話

 僕とアレク隊長は通信を受けた翌日の早朝、マクリーン中将が手配してくれた小型輸送機でヤーバリーズ基地を発った。

 ジャックとサフィール准尉、それにホリー軍曹が見送りに来てくれたが名目上は任務であることもありお互いに言葉少なだった。


「気を付けろよ、ナオキ軍曹。あまり隊長に迷惑かけんな」

「ナオキ軍曹、心して行ってきなさいね。隊長もお気をつけて」

「ナオキ軍曹、アレク隊長、お早いお帰りを願っています……」


 それぞれの見送りの言葉に僕は静かにうなずいた。


「ありがとう。それじゃあ、行って参ります」

「ジャック曹長、サフィール准尉、ホリー軍曹、留守は頼むぞ」

「「「了解!」」」


 隊長の言葉に三人が敬礼を返すのを見届けて、僕と隊長は輸送機に乗り込んだ。

 こうして、僕とアレク隊長を乗せた輸送機は一路首都リヴェルナに向けて飛び立った。




「唐突にお呼び立てしてしまい申し訳ありませんね、ベゼルグ」

「一体何なんだ? 急に呼ぶからには理由があるんだろ? ギレネス」


 ベゼルグはギレネスの緊急招集を受けて、再び地下へと舞い戻っていた。


「実は我々の情報網がかなり重要な情報をキャッチしたのですよ」

「ほう、中身は大物か?」

「ええ、大物です。共和国軍が首都リヴェルナの郊外で極秘裏ごくひりに新型WPを開発しているらしいのですよ」

「……新型? なんだ、WP-03Aじゃねえのか?」

「それがどうも03型とは違うようなのです。詳細まではつかめていませんが、03型の後継となる04型の話でもなく、完全に今までの機体とは一線をかくする、高性能な試作機が出来上がっているという話でして」

「何だと?」


 ギレネスの言葉にベゼルグは右目のまゆをつり上げた。


「俺たちもまだスペクターの後継が出来ていないんだぞ。仮にそんな機体が実戦に投入されでもしたら……」

「ええ、私たちの計画は大幅な軌道修正を余儀なくされます。下手をしたらもう一度最初から計画を立て直す必要すら出てきそうです」


 ベゼルグの言葉を引き継いで、ギレネスは深刻な表情で語った。


「……念のために聞いておくが、その話、釣りじゃねえだろうな?」

「私もその可能性を考えて、スポンサー殿にも確認を取りましたが、やはりそういう計画があること自体は確実のようです。ただ、それが本当に実物の製造に至っているかどうかの確証までは取れない、と」

「ふん、なるほどな」


 ギレネスの説明に、ベゼルグは鼻を鳴らした。


「何か心当たりがありますかね?」

「……一応は本当の情報を流しておいて、実は更にどんでん返しが……というパターンを前に一度見たことがあったんでな」

「……あなたが探しているという例のお相手でしょうか? そうだとしたら相当な策略家ですが」

「油断は禁物だ。既にスパイが一人殺られているんだろう? そこから俺たちの情報網の割り出しに成功している可能性もある」


 ベゼルグは危機感をにじませつつそう言った。


「だとすれば、どうします? 無視するのは容易たやすいですが、見過ごせるような問題でもないような気がしますが……」

「俺にあれを貸してもらえるか?」

「あれ? まさか先方から一機だけ借り受けている奴ですか」

「ああ、あいつで首都リヴェルナに殴り込みをかけてやるのさ」


 ベゼルグの提案にギレネスは露骨に顔をしかめた。


「あなた一人でですか? 冗談はほどほどにお願いします」

「この顔が冗談を言っている顔に見えるか?」


 ベゼルグは凄みのある笑顔でギレネスに迫った。するとギレネスはそれまでとは一転して冷徹な表情に変わった。


「あなたの復讐のためだけならば、到底許可は出来ませんね」

「勿論、それだけとは言わねえさ。計画を叩き潰すのか、それとも実機じっき奪取だっしゅがお望みかな?」

「あなた一人で出来ることには限りがあるのではないですか?」

「必要なら何人でも監視を付けてもらっても構わないぜ」


 ギレネスの機械的な問いかけに、ベゼルグは柔軟な対応を見せた。


「なるほど。私としては他の者を行かせる予定でいましたが、それほどまでに行きたいというならば仕方ありませんね」


 ギレネスは表情を緩めて、くたびれたように言った。


「すまねぇなギレネス。だが、こいつは俺たちにとっても山場だぜ」

「そうみたいですね。しかし、それならばあれ一機だけでは不足でしょう。現時点で動かせるスペクターを全て投入してみましょうか。数機ですがマシンガンを換装した改良型もあります」

「それだけの数を投入するとなると、大きな戦いになるな。例の独立任務部隊も動きやがるだろうが……」


 ベゼルグがそうつぶやくと、ギレネスは思い出したように言った。


「そうそう、忘れていましたよ。例の独立部隊から、パイロットが二人ほど首都リヴェルナに召喚されたようですよ」

「なんだと!? なぜそれを先に言わない?」

「何せついさっき入った情報ですしね。それに、各地の部隊から腕利きと見られるWP操縦手が首都に集められているという未確認情報もありますが……」


 ギレネスは淡々とした口調で語ったが、ベゼルグはそれを聞いて直感的に嫌なものを感じていた。


「おや、どうしました? ここにきて気分でも悪くなりましたか?」

「……どうってことはねぇ。それより至急操縦手をかき集めてくれ。首都リヴェルナに行くとなれば生半可な戦力じゃ返り討ちだ」

「承知しています。現時点での最高戦力を揃えましょう」

「頼むぜ。俺はあれの調整に入る。今日の夜にはここを出るぞ」

「わかりました。そのスケジュールで行きましょう」


 二人は打ち合わせを終えると、それぞれの準備に入った。

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