第五章 首都リヴェルナへ

設定 WP国際条約について

 正式な名称は「歩行型ほこうがた戦略せんりゃく機動兵器群きどうへいきぐんの取り扱いと戦闘行為せんとうこういに関する国際基本条約こくさいきほんじょうやく」で、締結ていけつは物語開始の五年前と比較的新しい国際条約である。

 加盟国は世界百三十二ヵ国で、未加盟国が四十二ヵ国存在する。


 物語開始の二十二年前にリヴェルナ共和国でWPが開発され、その二年後に起きた第三次五か月戦争によってWPの有用性ゆうようせいが確認されて以降、世界各国で熾烈しれつなWP開発競争が勃発ぼっぱつ。WPの開発に成功した国とそうでない国の間に著しい軍事力格差が現れ始めたことから、世界規模の軍拡に一定の歯止めをかけようと中小の有志国家グループがWP開発と運用に関わる国際的な枠組みを設けることを提案。


 WPを開発するだけの余力を持たない小規模国家や、際限のない軍事費の増加を抑えたい中規模国家、他国のWP開発をけん制したい大国グループなどの思惑が絡み合ったために協議は難航したものの、二年の歳月をかけて文言などを調整して調印と発効にこぎつけている。


 この条約で最も特徴的なのは、WPに代表される歩行型戦略機動兵器は生身の人間を攻撃してはならないことを定めた点にある。WPはWPあるいは戦車や飛行機などの同種の機動兵器に限定され、生身の人間と戦ってはならないというのは、そもそも対歩兵用の兵器として出発したWPにとっては一番のアドバンテージを失うことを意味し、当然ながら条約締結にあたって最も紛糾ふんきゅうした箇所であった。


 しかし、条約締結会議の議長を務めたエリアAのジパニス共和国首相(当時)イズミ・サトミの懸命な仲介工作もあり、正規兵ではない民兵には条文を適用しないことと、付帯事項として不可抗力による人的損害を例外とすることなどを条約に盛り込み、どうにか参加諸国の合意を得ることに成功している。この合意を不満とする数ヵ国が条約から脱退したものの、調印は予定通り行われた。


 この付帯事項に盛り込まれた「不可抗力による人的損害」というのがどれだけの範囲まで有効であるのかは明示されなかったため、この事項を拡大解釈して禁止されている対人戦闘を行う国があるのではないかと危惧する市民は多いものの、制定から五年が経過している現在に至るまで幸いにもそうした事例は確認されていない。


 リヴェルナ共和国政府は戦力の低下につながる条約には最初から及び腰であり、一時は条約批准じょうやくひじゅんを見送る考えも示していたものの、かつてだまし討ちのような形でWP導入を進めていた過去を想起した市民からの圧力もあり、結果的に条約締結から一か月後という速さで批准した。


 なお、条約締結に大きな役割を果たしたジパニス共和国首相イズミ・サトミは締結の翌年に首相に在任したまま脳梗塞で倒れ、そのまま帰らぬ人となっている。

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