第29話

 同じ頃、僕たちも戦闘に入っていた。

 敵は二機。やはりこの間戦ったのと全く同型の機体だった。やはり両機体ともに片手には携行火器を持っていて、一機は大口径のハンドガン、もう一機は小型グレネードランチャーを装備している。


(いる……! あいつだ……!)


 グレネードランチャーを装備している機体を見て、僕は直感した。無線操縦で操っているためか、この間の男の姿はそこには見えなかったが、全体から感じられる印象があの時と酷似していた。

 僕たちの乗っている運搬車両とWPとの間にはそれなりの距離がある。周りに障害物もないので、戦うにはちょうど良い場所だった。


「ナオキ軍曹、君はハンドガン装備の敵を抑えていてくれ。その間に私がグレネード装備の敵を倒す」

「了解しました」


 アレク隊長の指示にうなずいて僕は02Fを動かそうとしたが、その前にグレネード装備の敵が先に動き、いきなり最大火力と思われるグレネードを隊長の02FCAに向けて発射した。


「なにっ!」


 隊長が声を上げた。そう来るとは思っていなかったのか、ワンテンポ以上対応が遅れている。

 僕はとっさにコンソールを操作して、02Fが手に持っていた対WP用制式マシンガンを02FCAの前の空間に投げつけた。

 間一髪のタイミングでグレネードがマシンガンに当たって爆発する。



 ドガァァン!!



 爆発が起こるが気にしている場合ではない。


「済まない、軍曹!」

「礼はあとです隊長! すぐ次が来ます!」

「分かっている!」


 僕らが声を掛け合うひまもなく、敵のWPは速攻を仕掛けてきた。

 左腕部の固定型マシンガンを放ちながら、二手に分かれてこちらを挟みこもうとしている。

 と、隊長の02FCAが自分の装備していたマシンガンを僕の02Fに手渡してくれた。


「軍曹、君の方の敵が運搬車両の方に来ないようにけん制していてくれ。私はこちらの敵に接近戦を仕掛ける」

「隊長、お気をつけて」


 僕はそうは言ったものの若干心配ではあった。02FCAの側にいるのはあの男が操縦しているとおぼしきグレネード装備の機体である。こんな単純な戦術だけで済むとは思えなかったが、02Fの方にいる機体の動きを無視するわけにもいかない。

 僕は気持ちを切り替えて自分の担当する敵の動きに集中した。



 敵はどうやら僕らを挟みこむと見せかけて、機動力を生かし車両との距離を縮めているようだった。その証拠に僕がマシンガンでけん制射撃を仕掛けても、あまりに気にする様子もなく動き続けている。

 僕は少しだけ考えて、隊長に問いかけた。


「隊長、少しだけ前に出させていただけますか?」

「どうするつもりだ?」


 既に敵と接近戦闘をしている隊長が問い返してくる。


「こちらの敵が車両に接近する前に仕留めます」

「私は今手が離せそうにない。任せたぞ、軍曹!」

「了解です!」


 僕は隊長に応えると、02Fをハンドガン装備の敵の方へ押し出し始めた。相手がホバー装備なのを頭に入れて、慎重に間を詰める。

 相手はこちらの動きに気が付いたのか、動きを速めてこちらを突き放しにかかった。一気に車両を狙うつもりらしい。

 だが、当然それは僕も織り込み済みだった。僕は02Fの背面ブースターを起動させて02Fを相手の正面に回り込ませる。機体のエネルギーの消費は激しくなるが、こういう局面でなら活かせる手である。

 相手はマシンガンとハンドガンの双方をでたらめに乱射しながらこちらに突っ込んでくる。02Fを手早く片付けてそのまま強引に車両を狙う気だろう。

 しかし、そうは問屋がおろさない。

 僕は敵の攻撃をある程度見極めながら冷静にチャンスを伺い、敵が右腕部に携行していたハンドガンが弾切れを起こしたのを見澄まして、隊長の02FCAからゆずり受けたマシンガンをがら空きになった機体右側に叩き込んだ。軍によって制式採用された対WP戦用のマシンガンである。威力が足りないということはない。

 敵WPの右腕部付近は瞬く間に吹っ飛び、それでも最後の抵抗とばかりに左腕部のマシンガンを必死に撃っていたがそれもわずかな間で、続けて02Fの攻撃を受けた敵機はついに動きを止めて沈黙した。


「こちら、ナオキ・メトバ。敵WP一機の沈黙を確認」

「やるじゃないナオキ軍曹! その調子よ」


 僕が報告すると隊長ではなくサフィール准尉が応答した。


「サフィール准尉、戦況は?」

「ジャック機はかなり優勢に戦っているみたいけど、隊長機はちょっと苦戦気味みたいね。済まないけれど、こちらの警護はいいから隊長機の救援に行ってもらえるかな?」

「了解です、准尉」



「やられただと! 何をやってやがる!」

「も、申し訳ありません」


 ベゼルグは自分のコンソールを動かしつつ男を怒鳴りつけた。

 彼らは町中のある場所に機材を持ち込んで簡易的なコントロールルームとして運用しており、そこから無線操縦でスペクターを操っていたのである。しかし、なす術もなく一機が撃墜されたのを目の当たりにして流石のベゼルグも焦りを隠せなかった。


(こちらが一機を倒され、もう一方も劣勢か。俺の戦っているこいつも……指揮官だろうがなかなかの手合いだ……となれば、深手を負わないうちに撤退が正解か……)


 ベゼルグはそこまでを素早く計算した。ここで破滅覚悟の攻撃を仕掛けるほどベゼルグは周りの見えない男ではない。


「おい、お前。急いでここを引き払う準備をしろ」

「て、撤退ですか?」

「そうに決まっているだろうが! そっちのお前も適当なところで切り上げて撤収を手伝え」

「き、切り上げろって……機体が……!」

「うるせぇ! どのみち一機はもう敵の手中なんだ! あと一機や二機失ったところで大して変わらねぇよ!」


 ぐずぐずと抗議する男の言葉をベゼルグは一蹴いっしゅうした。


「わ、わかりました。オートプログラムに切り替えます」

「わかりゃいいんだよ……急げよ!」


 そう言い捨てるとベゼルグは敵に集中した。


(あの若造が来る前にケリをつけてやるよ、指揮官殿……!)

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