第28話

「広域レーダーに反応!三機です!」


 異変にいち早く気が付いたサフィール准尉が声を上げた。


「准尉、位置は?」

「一機は市中央部の警察署付近に。もう二機は市郊外の運動公園付近です!」

「警察署に、運動公園……ほぼ狙い通りといったところか」


 隊長は落ち着いた声でつぶやいた。

 あの後、僕たちは敵をおびき出すためにそれまでの配置を変更した。具体的にはジャックがそれまでの郊外の警戒から市中心部の警戒にシフトし、隊長はそれまで通り郊外の警戒に当たり、僕はわざと運搬車両から距離を取った。そして、車両自体は郊外にいる隊長の機体を追尾する形で動くようにし、一見すると一か所辺りの警戒を緩めたように見える形を取って敵を誘ったのだった。

 敵の出現予測位置もあらかじめ割り出しておき、その周辺をうまく警戒できるように周回にも工夫をして、極端に手薄な箇所は作らないようにもしていた。

 流石に完全に予測通りにはいかなかったものの、対応は十分可能な位置に敵は出現してくれた。あとはこちら次第である。


「サフィール准尉、公園付近に急行してくれ。危険だが運転は頼むぞ。それと警察署付近の人員を至急下がらせるように連絡を入れてくれ」

「了解です。お任せください」

「ジャック、市中心部の敵は君に任せる。あまり派手にやりすぎるな」

「了解。一丁ぶちかましてやりますよ!」


 サフィール准尉とジャックはそれぞれ気合いの入った返事を返した。


「ナオキ軍曹、君と私でこちらに仕掛けてくる敵を迎撃する。あまり突出はしないでいい。私の援護と車両の防護に集中してくれ」

「わ、わかりました!」


 僕は一瞬だけ遅れた返事を返した。敵が近付き、若干の気後れがあったのは否めない。前の戦いが頭の中をよぎる。


「……ナオキ軍曹、恐ろしいか?」


 隊長の声がヘッドセットから聞こえてきた。他のメンバーには聞こえない、隊長専用のシークレット回線での通話だった。


「……隠さなくてもいい、怖くなっても当然な経験をしたのだからな」

「……」

「軍曹、言ってくれ。今話さなければ、その迷いが君を今度こそ殺すことになるぞ」


 隊長は厳しい声で言った。だから、僕は話した。


「……恐ろしいです。敵と戦うのが、命を奪い合う戦いそのものが」


 本音だった。皆の前では何でもないように振舞っていながら、その実は毎晩悪夢にうなされていた。前の戦いで本気で殺される寸前にまで追い込まれた記憶が僕を苛んでいた。


「そうか、よく言ってくれた」


 隊長はまずそう言った。


「だが、今は戦場だ。どんなに戦いが怖かろうと、戦うしかない。戦わなければ我々がやられてしまう」

「はい……」


 その言葉に僕は小さくうなずいて答える。


「そんなに不安そうな声で返事をするな。前回の戦いでは君は一人きりで敵と相対しなければならなかった。だが、今度は私がいる。サフィール准尉もいる。ジャック曹長もいる。我々は一つのチームなんだ」

「……」

「だから、そんなに不安になるな。君が危険になったら私とサフィール准尉が支えて見せる。ジャックの闘志を見習うんだ」


 その力のあるはげましの言葉を聞いて、僕は心のおびえを振り切った。


「了解です、隊長……やってみせます!」


 強い決意を込めた声で隊長に応えた。


「よし、頼むぞ軍曹」


 隊長はそう言ってシークレット回線を切り、僕たち全員に号令を発した。


「よし、これより我々は敵テロリストとの戦闘に突入する!」



 警察署付近に出現したWPは付近で警戒に当たっていた警察官たちを火力と装甲で蹂躙じゅうりんして回っていた。

 ジャックの操る02FAが現場にたどり着いた時には既に相当数の警官たちが地に倒れ伏していた。


「野郎……好き勝手やりやがって……」


 02FAのカメラを通じて現場を確認したジャックは敵のやり方に敵愾心てきがいしんつのらせた。

 敵はやはり、ヤーバリーズ中央駅を襲撃したのと同じ、片手がマシンガンに換装されている異形いぎょうのWPだった。あの時と違うのは反対側の手に片腕に固定されている型とは違う口径のマシンガンを装備している点だ。

 操縦手はいない。こちらと同じ無線操縦であるようだった。


「隊長、警察署付近に出現した敵を発見。やはり例の機体です」

「ジャック、カメラの映像をこちらへ回してくれ」

「了解」


 ジャックは手元のコンソールを操作して映像を各コントロールピットに送信した。


「あの時の機体と同型ですね。あの時は片手ががら空きでしたけど、今日は携行火器を持っています」

「気をつけろよ、ジャック曹長。単純に考えれば相手の火力はあの時の二倍になる。油断は禁物だ」

「任せてくださいよ、あんな野郎に遅れは取りませんって!」


 ジャックは胸を張った。

 火力で言うなら強襲型であるジャックの02FAも負けてはいなかった。両肩に対WP型ロケットランチャー、腰部に小型速射砲二門、さらに携行火器として対WP用大型ライフルを装備していて、装甲も厚くなっている。動きはやや鈍重だが、敵の機動力についてはこの間の戦いで織り込み済みである。


「さぁ、どこからでも来やがれ!」


 ジャックが声を上げるのに反応したかのように、敵WPは攻撃を仕掛けてきた。

 地面を滑るように移動しながら両腕に装備したマシンガンを乱射してくる。


「おっと、流石に正面からは食らってやれねえな!」


 ジャックは可動部への直撃を避けるように機体を操作しながら、敵の動きから移動予測地点を読んで、ロケットランチャーをその場所に「置く」ように発射した。

 しかし、敵もそれを読んでいるのか、移動速度を落としカーブを描くようにしてロケット砲を回避しようとする。


「そう来ると思ったぜ! だが、甘ぇな!」


 回避のために移動速度が落ちたその瞬間を見計らって、ジャックは動きを一瞬だけ止め、あらかじめ狙いをつけておいた大型ライフルの引き金を引かせた。

 大型ライフルは単発式で当てるのが難しい。動きながら攻撃を仕掛けてくる相手には本来不向きな武器だが、ちゃんと照準を合わせさえすればその威力は絶大である。

 相手もジャックの狙いを察知して、更に動きを変化させようとしたが、それはわずかに遅かった。

 ジャックの放った大型ライフルの銃弾が、ピンポイントで左腕部に固定されているマシンガンの接続部分に直撃した。流石に左腕部からマシンガンが脱落するようなことはなかったものの、直撃した部分からは派手に火花が噴き出し、固定型マシンガンは機能を停止した。

 これで敵の火力は半減したことになる。


「さぁ、勝負はここからだぜ!」


 ジャックはまだまだこれからと言わんばかりに闘志を燃やしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る