第11話
そこに戦いを終えた僕たちが合流する。
「隊長、ジャック軍曹、無事ですか?」
「サフィール曹長、ナオキ軍曹、君たちも無事だったか」
「はい、今回はすっかりナオキ軍曹に助けられました」
サフィール曹長は感心しきりといった風情で言った。
「そうか。我々に比べると不利な戦いだったと思うがご苦労だったな、軍曹」
「いえ、やるべきことをやったまでです」
アレク隊長からねぎらいの言葉をかけられて、僕は一瞬だけほっとするも、すぐに表情を引き締めた。
「それより、これからどうします。敵はメインコントロールルームを制圧しているみたいですが」
「うむ、この場はひとまず生き残った他の隊の隊員たちに任せておいても大丈夫だろう。我々第一小隊はこのまま敵に制圧されたメインコントロールルームの奪還に向かう」
「しかし隊長、WPでの対人戦闘は条約で禁止されていますが?」
サフィール曹長が冷静に隊長に指摘した。
「分かっている。だが、恐らく武器庫も制圧されているはずだ。いちいち武器庫を奪還して、人を揃えて突入するなどと手間をかけていると、敵に逃亡されてしまう恐れもある」
「逃亡? ここまでやっといて敵が逃げるって言うんですか?」
「ジャック軍曹、敵の狙いは何なのかについて、我々は話さなかったか?」
隊長の言葉にジャックは少しだけ頭をひねって、すぐに記憶を呼び起こした。
「……あ……!」
「敵の狙いは03Aのデータだ。その入手に失敗した以上、敵は基地制圧の維持に
「しかし、基地の屋内でWPを使うのはどうかと……」
サフィール曹長はなおも慎重意見を述べようとしたが、ここはアレク隊長が押し切った。
「責任は指揮官である私が取る。第一小隊は直ちにメインコントロールルームに向かう!」
しかし、僕たちがたどり着いた時にはもう遅かった。
「やられたな……」
内部の状況を確認したアレク隊長は苦々しげにつぶやいた。
僕たちがメインコントロールルームに踏み込むと同時に、途端に強烈な血の匂いが漂ってきた。
中には生存者は誰一人残っていなかった。残されていたのは警備担当の兵士たち、そして襲撃者の一味と思しき男たちの死骸と血まみれになったWPコントロールビットだった。
「これはひどいわ……」
生存者がいないか確認に回っていたサフィール曹長が吐き気をこらえるようにつぶやいた。
「一体誰がやったんですかね? こいつらのことを」
「恐らくはこの事件の主犯格だろう。口封じのために操縦者は皆殺しにしておいて、自分はそのまま逃亡したんだ」
「やり口が汚いですね」
ジャックの問いかけに答えた隊長の言葉に、僕は顔を曇らせた。
「そうすると、今基地内に残っている連中は……」
「多分金か何かで雇われたならず者ばかりで、主犯のことは何も知らないんだろう。自分たちが切り捨てられたことにも気づいてないはずだ」
「事件の主犯は相当な手練れですね」
サフィール曹長が厳しい表情で言った。
「うむ、できればここで捕らえておきたかったんだが……」
暗い表情でそうつぶやいた隊長の言葉に、僕は強烈な不安を覚えた。
この事件はこれで終わりではなく、より深い闇の中へと僕を
指揮官格の男は油断なく近寄ってきた相手の素性を確認してから声を掛けた。
「よぉ、自らここにお越しとはな」
「話は聞いていますけれど、作戦は失敗してしまったみたいですね」
「ああ、やっぱり付け焼き刃の操縦手じゃ正規兵にゃ及ばんな」
「一番マシなメンバーを選抜したつもりでしたけど、残念です」
相手は言葉とは裏腹に、さして残念そうな様子も見せない。
「それで、この後はどうするんだ?」
指揮官格の男がたずねた。
「まぁ、目的の一つは躓いてしまったですけど、何とか必要なモノは入手できましたからね。計画は予定通りフェーズ2に移行させます」
「それで……俺はこれでお役御免かい?」
指揮官格の男の言葉に、相手は小さく笑った。
「冗談はほどほどにしてくれますか? これから軍も警察も本腰を入れて私たちのことを探ってくるでしょうし、むしろここからがあなたの出番ですよ、『血塗られた英雄』さん」
「ふん……」
『血塗られた英雄』と呼ばれた男は不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「おや、お気に召しませんでした?」
「構わん。それより、そろそろ場所を変えないか? ここでは軍に気付かれかねん」
「そうですね……」
二人の男は静かにその場から立ち去った。
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