第10話

 僕は間一髪というところで03Aの機体をサフィール曹長たちと迫りくる01Wの間に割りこませて、突進してくる01Wを受け止めさせた。

 流石に新型の03Aだけあって、01Wを物ともせずに受け止めている。


「ジャック軍曹、サフィール曹長、ご無事でしたか?」

「遅ぇぞ、何ぼやぼやしてたんだナオキ!」

「でもナイスタイミングよ、ナオキ軍曹。助かったわ」


 僕の声に二人が応答するのを確認して、僕はひとまず胸をでおろした。


「隊長は?」

「隊長はオペレーションルーム前に敵を引き付けています。ジャック軍曹、これを!」


 じたばたともがく01Wをひとまず正面へ投げ飛ばしておきながら、ジャックにコンソールを投げわたす。


「おっ、こいつは!」

「急いでくださいジャック軍曹! 全員で03Aを操作できれば後は……」

「やれやれ、また走るのかよ……だが、ようやく面白くなってきやがったぜ!」


 ジャックは愚痴を漏らしつつもニヤリと口の端を吊り上げ、03Aの置かれている地点へと走っていった。


「ナオキ軍曹、あなた一人で大丈夫?」

「大丈夫じゃなくても、やらないといけないタイミングです、今は!」


 サフィール曹長の問いかけに答えながら、僕はその場に残っている01W三機と向き合った。

 数は一対三でこちらの不利だが、向こうは旧型でこちらは新型である。それに向こうがどう操縦しているかまでは分からないが、こちらは現場を目視しながら操縦できる強みもある。

 遠隔操縦の弱点は現場にいない分、環境の変化に即応できない点だ。通常ならば距離を取って火器を射撃すればそれで済むが、現場作業用の01Wには火器がない。こちらの03Aも火器は使えないが、現場で目視しながらの格闘戦ならば、新型ゆえのパワーで旧型の01Wを圧倒できるはずだった。



 まず、先程投げ飛ばされた一機がどうにか態勢を整えて突っ込んでくる。が、先程投げ飛ばされた際に脚部に故障でも起こしたのか、やや動きがぎこちない。

 僕は落ち着いて03Aを操縦し、正面から突っ込んできた01Wを全力で殴りつけさせた。脚部が故障しているらしき01Wは全力の一撃に耐え切れずに吹っ飛ばされて横倒しになり、そのまま機能を停止して沈黙した。


(01Wを壊してしまった始末書をこの事件の後で書くことになるんだろうか?)


 ……などど場違いなことを考えつつ、僕は残りの二機の動きに集中した。

 残りの二機はすぐには動かなかった。あっさり一機を沈黙させられてしまい、判断に迷いが生じているようだった。

 その隙を僕は見逃さない。相対位置に気を付けながらも03Aに間合いを詰めさせて、片方の01Wに対して足払いをかける。流石にそれで倒れるほど01Wもやわではない。しかし、一瞬大きくバランスを崩してしまい、こちらに反撃は行えない。僕は畳みかけるように03Aを操縦して01Wに今度は逆側から強烈な裏回し蹴りをお見舞いさせる。たまらず01Wが倒れてしまったところで、僕は念のため03Aに頭部を踏みつけさせて破壊しておく。これで万が一、もう一度起き上がってこられても、こちらの脅威ではない。



 二機を立て続けに撃破されてしまい、残りの一機は流石にひるんだのか大きく後退して僕らから距離を取った。

 僕も深追いせずに03Aを操縦して、距離を維持しつつ元いた位置あたりに機体を動かす。

 だが、大きく後退した一機は僕らが位置を確保するのを見澄まして、後退した位置から今度は一気に加速をつけてこちらに突っ込んでくる。

 相打ち覚悟の突進を見舞うつもりだ。


「くそっ!」


 僕は焦った。流石にあれを食らったら03Aと言えどもただでは済まない。どうしたらいいのか、判断に迷った。

 そこに厳しい声が飛んでくる。


「ナオキ君、来るわよ! しっかり周りを見なさい!」


 安全圏に退避していたサフィール曹長の声だった。

 その声に僕は即座に反応する。そして周りを眺めるとすぐに言っている内容を理解した。

 01Wが一気に僕らに迫る。だが、それより一瞬早く、僕は03Aに先程沈黙させた脚部が壊れている機体の胴体部から片腕を引っこ抜かせると、それを迫ってきた01Wの足元に投げつけた。

 完全に意表を突かれた01Wは、投げつけられた腕部にまともに足を取られてつんのめり、そのまま前方に大きく転倒した。

 僕はすぐに追撃をかけて転倒した01Wの頭部を03Aに破壊させた。



 どうにか01Wを三機全て沈黙させることに成功した僕は、そこでようやく一息つくことが出来た。


「ご苦労様、ナオキ軍曹。いい戦いぶりだったわよ。初めての実戦とは思えないくらい」

「はい……? ……えっ……あっ……そうか……」


 サフィール曹長にそう言われて、ようやく、これが僕にとっての『初陣』だったことに気がついた。


「大分張りつめていたみたいね。まぁ、こんな状態じゃあ無理もないけれど」


 サフィール曹長は僕を気遣うようにそう言った。


「い、いえ、そんなことは……それより隊長たちは無事でしょうか?」

「向こうもそろそろ終わるみたいよ」


 その言葉に僕はアレク隊長たちがいるはずのオペレーションルームの方角を見やった。



 するとそこでは、丁度ジャックの操作する03Aが最後に残った01Wを撃破しているところだった。


「いい操縦だ、ジャック軍曹。これならどこに出ても恥ずかしくないな」


 自身も数体の敵を撃破した隊長が感心したような声でジャックに言った。


「隊長にそう言われるとは光栄です。もちろん、こいつの性能もあると思いますけどね」


 ジャックはそう言って機嫌が良さそうに操縦していた03Aの腕部をでた。

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