第9話

「非常用アラームだと! ……おいお前ら、何やったんだ?!」


 メインコントロールルームに鳴り響く非常用アラームに、指揮官格の男は思わず怒声を上げた。

 首尾を報告しようとした矢先に、格納庫を見張っていたWP操縦班の一人から生存者を発見したという報告が入り、やむなく報告より先にそちらを処分しようと部下たちに発破をかけていたのであるが、事態は想定以上の悪化の兆しを見せつつあった。


「俺たちは何もしていませんよ! 格納庫にいる奴らが何かしたんじゃないですかね?」

「適当言ってんじゃねぇバカが! ……いや、待てよ。まさか……」


 部下に怒鳴りつけたその後で、指揮官格の男はふと考え込む。


「おい……格納庫内のオペレーションルーム前を調べろ! 誰かいるはずだ」

「いました! 野郎がふたり、ドアの前で何かしています」

「すぐに片付けろ! 奴らは03Aを動かすつもりだ!」



 僕はすぐに異変に気が付いた。


「まずいです隊長。01Wのうち一機がこちらに向かっています!」

「思った以上に対応が早いな!」

「まだ開きませんか? このままだと捕捉されます!」

「もう少しなんだが……!」


 隊長が扉を開けようとしているが、扉は少しだけ開いた状態で中には入れそうにない。

 僕たちを殺そうと、01Wがすぐそばまで迫ってきている。


「間に合いません! 隊長、退避をー!」


 僕は迫りくる01Wから何とか身を避けながら絶叫した。


「くうっ!」


 隊長が寸前でドアから手を放し、突進してきた01Wから身をかわしたように僕には見えた。



 凄まじい轟音が鳴り響く。そして、同時に巻き起こる爆風。

 僕は一瞬目と耳を奪われてしまい、その場にしゃがみこんだ。



「……そう。ナオキ・メトバ軍曹……!」

「……は、はいっ!」


 アレク隊長らしき声の呼びかけに僕は我に返る。


「無事か?」

「は、はい、無事です。隊長は?」

「何とか擦り傷程度で済んだよ」

「良かったですね」

「しかし、俺たちは運が良い。見てみろ軍曹、ドアの方を」

「え?」


 隊長の言葉に、思わず僕はドアの方をしげしげと眺めた。

 オペレーションルームの前には上部の半壊した01Wがその場で機能停止していて、塞いでいたドアの方は01Wと激突したショックでひしゃげて弾け飛んだのか、オペレーションルームの奥の方に転がっていた。


「や、やった……」


 僕はそれを見て思わず安堵のため息を漏らしてしまったが、アレク隊長はもう気持ちを次に切り替えていた。


「ぼんやりしている暇はないぞ軍曹。急いでコンソールを手に入れるんだ」

「あ……はい、了解です」


 僕は慌てて気持ちを立て直すと、隊長と共にアラームの鳴り響くオペレーションルームに入った。



「はぁ……はぁ……隊長たちは?」

「どうやら中に入れたようです……ったく、隊長ともあろう人がてこずったもんだぜ……」


 しばらく逃げ続けてすっかり息の上がったサフィール曹長とジャックは息を整えながら顛末てんまつを眺めていた。

 途中から生き残っていた他の兵士たちとも協力しながら逃げまくっていた二人ではあったものの、途中から操縦者の方も二人に的を絞ってきたのか、他の兵士に構わず二人だけを狙って動き出したため、休む暇もなく動き続けた二人の体力は限界に近付きつつあった。


「ともあれこれなら……っと、まずいわね。こっちにみんな来るつもりよ」


 サフィール曹長が顔色を変える。それまで散らばって動いていた01Wが全機頭部をこちらに向けて機体を旋回させていた。


「俺たちにコケにされた腹いせってことですかね?」

「そうかもね。いざという時の人質って線もありそうだけど……」

「ど、どうするんですか、曹長……?」

「ここまで来たら隊長とナオキが素早く03Aを動かしてくれるのを待つ以外ないわね」

「隊長、ナオキ、急いでくれよ……」



 僕と隊長は大急ぎでオペレーションルームのチェンバーにあった簡易有線型コンソールを回収すると、格納庫内で静かに佇んでいる03Aのもとへ走った。

 敵は狙いをジャックとサフィール曹長に絞っているらしく、出入り口付近に集結しつつあった。


「まずいな……、急げナオキ軍曹!」

「はい!」


 隊長の言葉に僕もうなずいて、足を急がせる。

 そして、03Aのもとまでたどり着いた僕たちは機体に異常がないかを軽くチェックして、機体の腰部にあるソケットに有線コンソールを差し込んだ。


 ヴヴヴヴヴヴヴ……


 重厚な機械音と共に03Aが起動を開始する。

 本来なら起動後に動作確認をしたいところだったが、今はそんなことをしている暇はない。


「起動完了! いけます」

「こちらも大丈夫だ。よし、私が敵をオペレーションルーム側に引き付けるから、軍曹は二人の救出に当たれ! それとジャックにコンソールを渡すのも忘れるな!」

「了解!」



 指揮官格の男は既に作戦の失敗を悟っていた。


(チッ、ドジりやがって……だが、所詮は付け焼刃、ってことか……)


 口では操縦者の男たちを怒鳴りつけつつ、指揮官格の男は冷静に事態を見据えていた。


(……03Aを持ち出されたらこちらの負けは確実だ。連中も馬鹿じゃないから、ぼちぼち他の基地からも増援が派遣される頃合いだろう……と来れば、ここらが潮時、ってことか……)


 男は思案しながらも先程一度手に取ったレシーバーを取り上げた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る