第5話
「あーあ、積み込み作業なんてかったるいよなぁ……」
昼食を取るために基地内の食堂へと向かう道すがら、第一小隊での同僚の一人であるジャック・オーヴェル軍曹はいつものようにぼやいた。僕と同じ志願兵出身の彼はWPでの実戦に早くから興味を持っており、基地での作業任務など踏み台でしかないと常日頃からうそぶいていた。
「ジャック軍曹、そういう言い方は良くないな。これも任務のうちだぞ」
アレクサンダー・ニーゼン少尉がジャックをなだめる。彼は士官学校出身の若手士官であり、僕ら第一小隊の指揮官にあたる。真面目な性格ながら状況に合わせた柔軟な判断ができ、WPの操縦技術も確かなものがあった。僕もアレク隊長には配属当初から信頼を寄せている。
「そんなこと言ったって、単調な作業なのは確かでしょう、隊長」
「だが、単調だから手を抜くというのは違うだろう。少々操作が雑だったぞ」
「そうそう、ジャックがもうちょっと丁寧なら、お昼はあと15分くらい早く食べられたわね」
アレク隊長の言葉に合わせて、サフィール・エンディード曹長が口を挟んだ。彼女は通信業務を専門とするオペレーターである。一時期は前線に立っていたこともあったという歴戦の兵士でもある彼女の言葉にはアレク隊長でも敵わない重みがあり、隊のメンバーは誰ひとり頭が上がらない。
「また、俺一人だけ悪者扱いですか? たまらないなぁ」
流石のジャックも隊長と曹長の双方に言われては分が悪い。僕にとってはこれもすっかりお馴染みの光景ではあるのだが。
「別に悪者扱いしているわけじゃないわ。こういうことを言われたくなければ、もう少し技術を磨きなさいということよ。ナオキ軍曹みたいにね」
「曹長、お言葉ですけど、僕はまだジャック軍曹には及ばないですよ」
僕は言った。実際、ジャックの操縦技術はこの基地内でもかなり高いレベルにあると僕は思っている。特に火器の取り扱いには目を見張るものがあり、僕はまだシミュレータでの模擬戦闘でジャックに勝てたことが無い。
その反面、隊長たちの指摘にもあるように精密な動作を行うことのはやや苦手なようであり、本人も語っているが根っからの現場肌なのだろうと僕は考えている。
僕がジャックに勝っているのは精密動作性くらいなので、その点だけで僕がジャックより上だというのは違うだろう、と思ったからこそ僕は曹長の言葉にあえて意見してみたのだ。
「あら、ご謙遜ね。でもね、ナオキ・メトバ軍曹、あなたはもうちょっと自信を持ったほうが良いと私は思うわよ」
サフィール曹長は少し苦笑いしながらそう言った。
「そう、ですか……でも、僕なんて実機触ってからまだ半年も経ってない素人みたいなものですよ。まだまだ経験が足りてない」
「いや、俺も曹長の意見に同感だな。その素人みたいな人間がわずか三か月ほどで本格的な作業に加われるくらいまで向上できたんだからな」
「はぁ……」
アレク隊長の言葉に僕はとりあえずうなずいたが、そんな実感はどこにもないというのが正直なところだった。
しかし、そんな風に話しながら歩いている時にそれは起こった。
ヴゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!
いきなり基地内に響き渡る非常警報のサイレン音。
「「「「!!」」」」
僕たちは足を止めて、思わず顔を見合わせる。
「隊長!」
サフィール曹長が厳しい面持ちでアレク隊長の方を見る。
「分かっている。昼食は後回しだ。全員直ちに格納庫に向かう!」
隊長の号令がかかり、僕らは今来た道を逆走して、基地内の格納庫へと急いだ。
『……敵襲! 敵襲! 所属不明の敵勢力が基地敷地内に侵入し発砲行為に及んでいる。基地内の民間人及び非戦闘員はただちに防護区画に退避せよ! その他の……』
走っている間にも非常放送が流れ続けて状況を知らせてくれる。
「昼飯時に襲撃とはやってくれるぜ! どこの阿呆だよ!」
「ジャック、文句は後々で。今は僕らのやることに集中しないと」
「わかってらぁ! 格納庫へ一直線だ!」
「……」
僕とジャックが声をかけあう中、アレク隊長は何事か考えを巡らせているようだった。
「隊長、何か?」
サフィール曹長がアレク隊長の様子を察して声を掛けた。
「……いや、何でもない。今は格納庫に急行して機体を守るほうが先だ」
隊長はそう言って気分を切り替えるように首を小さく左右に振った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます