第4話

 全環境即応型機甲操兵軍第一旅団予備操兵科第一小隊。僕が配属先として赴任した部隊の正式名称である。

 「全環境即応型機甲操兵」とは、即ちWPのことである。WPは陸上用の兵器としてスタートしたものの、その多用途性から陸海空全ての分野で活動が求められるようになり、軍はWPの柔軟で効率の良い運用を行うべくWPの運用を専門に行う第四軍の設立を決断した。それが「全環境即応型機甲操兵軍」というわけである。

 もっとも一般に馴染みのない言葉ばかり並んでいるうえ、かなり堅苦しい名称であるため世間の受けはいまいちであり、もっと直接的に「WP軍」という名称で呼んでいる人も多いらしい。僕自身、もうちょっといい名称はなかったものかと思わないこともなかったが、「WP軍」というのも微妙にセンスのない呼び方であるような気がしている。

 まあ、そんな余談はさておいて、僕は軍に入隊して三年目の夏にこの部隊に配属されることになった。「予備」という文言が示しているように、この部隊では前線のWPを操縦する任務に就くわけではない。後方から前線に向かう運搬車両にWPを積み込んだり、撤収してきたWPを整備工廠内に格納する作業にあたる、いわば裏方の部隊である。

 正直な話、いきなり前線での操縦を任されるのではないかと内心でビクビクしていた僕にとってそれはかなり安心できる話であり、プレッシャーもなく任務に取り組むことができたのであるが、当然それでは満足できないという上昇志向の強い同僚も存在していた。



 そして、部隊に配属されてから三か月が経過した。


「WP-03A型、二十七機、全機の積み込み完了しました!」

「うむ、ご苦労だった。では第一小隊は下がって昼食に入れ。一三〇〇までに終えて、集会所に集合するように」

「了解!!」


 上官の言葉にキビキビと返事を返す。

 積み込んだのは先日ロールアウトしたばかりの新型であるWP-03Aだった。昨日の夕方に先行配備される予定の百五十機が、第一旅団の所属しているヴェレンゲル基地内に搬入され、今朝から各地の部隊に搬出するべく運搬車両への積み込み作業を進めていた。

 銃器操作の権限が付与されていない簡易型の有線コンソールを用いながらの作業であるため操縦性は良いのだが、人も同時に動いていく必要性がある故にどうしても作業の能率が悪くなりがちで、指定された全機を効率よく運搬車両に積み込まなければならないというのはなかなかの難題である。



 一方で、新米操縦者をこういった単純作業にまず従事させることで、WPの基礎的な操作に習熟させるという目的もあったようである。実際、それまでヴァーチャルシミュレータによる訓練でしか操縦をやったことがなかった僕はここで初めて実機の操縦を行い、シミュレータと実機との操縦性の違いを認識した。着任後一か月ほどはそのズレを修正するために旅団長による特別操縦訓練に志願参加をしていたほどだ。そのかいもあって、僕のWP操縦技術は短期間で大きく向上した。

 この頃から、僕はWPの操縦という任務にやりがいを感じ始めていた。

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