天文学的な愚かさ


 妄作論は妄想による作品なので、時にはこういうこともできる。



 幼少の頃、大切だったオモチャをうっかり踏んで、元に戻らなくなってしまった時のことをよく覚えている。

 今は全く機能することのない涙腺をフルに使って、ぎゃんぎゃん泣いた。母も父もまさかそんなに泣くとは思っていなかったらしい。


 幼いながらに覚えている。

 あれは確か、ほんの少し高い場所にある何かを取ろうとした時だった。背伸びして手を伸ばせばギリギリ届くような距離にあった。

 あの時、椅子を始めとして、土台になるものは幾つもあった。その上に乗れば苦も無く取れただろう。

 でも、当時の自分はそれを面倒臭がった。だって、届くかもしれないから。

 子供ながらの挑戦心からか、必死につま先立ちになる。


 バランスを崩した。

 楽観的な愚かさを持っていた自分は忘れていた。

 ついさっき、あの大切なオモチャを、自分のすぐ近くに、床に置いていたことを。


 自分の記憶で一番過去に出てくる失敗、後悔の体験。

 二択で失敗してきた自信がある。


 声をかけていれば。

 勉強をしていれば。

 部活動の選択を間違えなければ。

 冷静になっていれば。

 受験に本気になっていれば。

 情熱を持っていれば。

 就職活動について真剣になっていれば。

 あの人に会っていれば、あるいは会っていなければ。

 行動していれば。行動していなければ。 


 100回連続で失敗しただろうか。


 電卓で調べてみたら、2の100乗分の1は「7.8886091e-31」らしい。要するにアホみたいに低い確率ってことだ。

 天文学的に低い確率……天文学的な愚かさの上でも、こうして生きてるんだよな。不思議なことに……



 その不思議さが、今の自分を生かしていたりするのかもしれない。

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