本気でぶつかる


 くだらないなと思う自分のプライドのひとつに「本気でぶつからない」というものがある。

 子供っぽいのだが、子供は実際本気でぶつかって来るだろうので、実はアダルトチルドレンと呼ばれる人物に当てはまりそうな性質である。

 負けず嫌いとはまた違う。負けを恥と見るのは同じだが、より後ろ向きというか、余裕を保っておきたい、自分を高く見せたいということに全精力を注いでいて、勝負そのものには全く興味がないというか。

 しかし、そんな都合の良い勝負がごろごろ転がっているわけもなく、勝負を選ぶようになる。最終的にたどり着く場所は、勝てる相手と勝てる勝負しかしないお山の大将か、勝負しなければ無敗というよくわからない理論のもと、完全に口だけの人間となるか。

 どちらにせよ、進める道は自ずと限られてくるし、得られる経験も大したことはないだろう。


 本気でぶつからなければならない。しかし本気でぶつかるに値するものとはなんだろう。子供の頃、色々試していれば変わっていたかもしれない。まず自分の本気がどれくらいのものかも分からない。

 手当たり次第にやる、調べてからやってみる、いっそのこと人に丸投げしてしまう。やり方は色々とあるはずなのに、結局は選択しないという選択を取りがちだ。億劫であるし、恥ずかしさもあるだろう、だが何よりも大きいのはこのプライドなのだ。「勝負しなければ負けることはない」「本気でぶつからなければ自分に失望することもない」。

 昔自分が書いた作品で「それを人は不戦敗と呼ぶ」と非難したものがあった。まさにその通りだ。勝負することを放棄している。


 言い訳の芽はどこにでも湧いてくる。茂ってしまう前に摘まなくてはならない。

 

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