チート一派との処世術
ぶっ飛んだ能力を持つ主人公と取り巻き達。大半はその一派の活躍を描いているわけで、能力を持たない一般人というのは平伏するか、反抗してぶっ飛ばされるかしかない。
主人公らも昔は能力なしのはずだったのだが、強力無比の能力の反動からか、記憶か心の一部が消えているようだ。
そんな「生きた世界終末時計」と呼べるような彼らがいる世界に偶然居合わせてしまった場合、どうすればよいか。
単なる村人とかなら、まだ呑気していられる。超絶魔法の暴発によって故郷が壊滅したり「どうせ後で蘇生させるから」と呆気なく命を奪われたりするかもしれないが、それでも低確率……雷が直撃するよりかは高いだろうが……の事象である。
問題は何らかの理由があって、敵対しなくてはならない場合だ。超常現象、または人間離れした技巧を持ち、数の暴力が通用しない彼ら。
どんなに追い詰めたとしても、指先ひとつであっさりと逆転されてしまう。
現実的な方法としては、チート持ち達の同士討ち、自滅を狙うくらいか。メインヒロイン辺りうまく誘導できれば可能性はある。その際には触らぬ神に祟りなし、ともかく正体を隠して自分への接点を極力消しておく。
元凶が自分と分かってしまえば当たり前のように標準搭載された瞬間移動やら、超高性能ビーム的な何かで一瞬でゲームオーバーである。
それに、同士討ちのつもりが互いが仲間(隷属)関係になってしまったらどうしよう。状況はますます悪くなるばかりだ。
あとは精神的に追い詰めるとか。彼らは能力に精神が追い付いていないケースが見受けられる(およそ一般人、それより少し弱いかも)ので、心の揺さぶりのようなものには存外弱い。痛みを感じないクールと呼ばれるやつほど、欲望のマグマが心の底にあって、噴出するときを今か今かと待っている。その欲望を読み取り、先に提案をすることでイニシアチブを取るという方法。
ところが、心を読むなんて身も蓋もない能力があるようで、そうなると、この提案は全く意味をなさないことになる。
「残念だったな、俺に嘘は通用しない」
とまあ、カンニング同然の行為しつつも優等生ぶっているのは如何なものかと思うが、それでも致命的なミスになる。
友好関係を築いておいて土壇場で反逆する。心も読まれないように敵対していた記憶も一時的に消去して、素面のまま彼らと接触。流石に深い関係になった人物の心を常に読むことはしないだろう。そこまでやったら人間不信もいいところだ。
主人公の懐刀にまでなれば、斬り込める可能性も上がる。深い友情が確認できたら、記憶を戻して行動開始。仲間たちの信頼を集め、脆いところ、不満を抱いているところから突いていく。
場合によっては不満の種を撒くために事件をひとつふたつ起こす必要もあるだろう。肝心なのは、主人公に直接影響のある事件にしないこと。彼(彼女)が本腰を入れたら、あっという間に特定、瞬殺コースまっしぐらだ。治安が悪いせい、運が悪いせいという方向に持っていく。そこに作為を見せてはならない。
その後、特定の仲間を狙うとすると、まず大体は主人公にゾッコンであることから、まずは主人公の味方であるスタンスを崩さずに語りかける。本格的に引き抜きにかかる場合も、大きな悲しみにうちひしがれているそのキャラを「(主人公の代役で)慰めにいく」という形がいい。
仲間の方から愚痴や提案を出してくれると順調だ。「手柄を独り占めする」「ハーレムの一人である自分を見てくれない」「この先やっていけるか不安」……主人公(チート持ち)にとってはどうでもよくても、その周りまでが同じ気持ちというわけでもない。心を解きほぐす、それは主人公への依存関係も解きほぐすことになる。
ここで気を付けるべきは主人公の独占欲である。誰もを均等に(薄く)愛しているタイプだと、主人公の死角となる脆いところがない。変に手を出してパーティ追放というのもいただけない。普通の会話や仕草にも細心の注意を払わなくてはならない。
こうして主人公の信頼を奪ったとしても、もともと一人だけで残りのすべてを倒すことが可能かもしれない(金魚とそれに連なるフンみたいな構成)し、そもそも一匹狼の主人公なら上記の策は使えない。
精神的に追い詰めた結果、世界すべてを消し飛ばされても意味がない。先述した通り、「指先ひとつであっさりと逆転する」から良くも悪くもチートなのだ。対策をいくら弄して、確率をいくら上げようが、決して勝勢にはならない。
だから面白そうなテーマだなと、思ったりもするのだが。
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