カビやばい


 スーツにカビが生えていた。

 七月の初めに一回だけ使う機会があって、それっきりハンガーにかけたままだったのだが、今朝方見てみると黒と灰のまだら模様になっていた。

 慌てて周囲を確認してみると、カビ、カビ、カビ、カビ。大小問わずカビまみれである。衣服の材質も特に関係なし。合成繊維だろうがお構いなしにへばりついている。

 この様子だと部屋中に……という、考えただけで鳥肌が立つ想像もしてしまう。物陰をはじめとし、目に見えていない箇所はすべてカビの繁殖域である可能性がある。

 原因は言うまでもなく、掃除や手入れを怠ったからであるのだが、この様子を見て「カビって英雄的だよな」と思った。


 最初は目に見えないほど小さい胞子であった彼。それ故に人間の監視から逃れた彼は死角に潜り込み、少しずつ仲間を作りながら成長・発展を遂げていく。そしてある時に彼は胞子を飛ばす側となり、それは部屋の全体へと行き渡る……


 これは勇者の冒険とも読み替えられないだろうか。そっくりそのまま悪の成長とも呼べそうな気もするが。

 とにかく、カビ、やばい。 

 

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