あれもこれも


 今回は「まとまり」についてのお話。

 渾身の一作を出そうとして、現時点で自分が持っているネタをすべて出してしまいたいという欲求にかられることがある。

 面白い、興味深い、カッコいい。上手い言い回しが浮かんでくると、あれもこれも取り込んで最初から最後まで自分の色がついた……まこと節を聞かせてやりたくやるわけだ。

 しかし、多くの物語や見せ所を詰めるのであれば、それらに一本の軸、関連性がなくてはならない。雑多な情報をただ闇雲に入れているだけでは、何の話をしたいのかまるで分からなくなる。せっかく良いものを多く載せているのに、それらが打ち消しあうのは勿体ないことだ。

 短編集、ショートショート集であれば、色も輝きも出すだけ出せばいいのだが、渾身の一作を提示するとなると、如何に綺麗で一本通ったものにするかが大切になる。

 その為には優れていると思っていても、削らねばならない箇所もあるだろう。美しいストレートフラッシュを揃えるためにエースを捨てねばならないこともある。六枚・・ではポーカーにならない。


 一本の軸なんて小難しい言葉を使ったが、要するに物語を構成するキーワード(欠かすことの出来ないもの)を幾つか取り出してみて、それらに共通している事柄を導き出すようにすればいい。その事柄に触れながら物語を進める。

 新しいキャラクターや要素を登場させる場合も、その事柄に絡めておけば、比較的自然になる。類は友を呼ぶとはよく言ったものだ……


 この繋がりが「一見遠いように見えて、驚くべきほど近い(灯台もと暗し)」というものだと、読者に意外性を与えることになる。関係ないことをあれもこれも詰めているだけに見えて、実は一本の軸によって結び付いていたなんて、ストーリーが上手い小説によく寄せられるコメントではないか。

 伏線や布石はある意味、突拍子もないと感じられるほどに遠い共通項を、人が納得できるほどに引き合わせる為の道具とも呼べるかもしれない……岸と岸の間に置かれたいくつかの石の足場。それらを跳びに跳んで対岸へ向かうかのような。

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