パッケージングされた身体


 胸に手を当ててみると、拍動がする。

 この拍動のおかげで生きていられる。心臓は意識の流れとは別に動いており、こちらが逐一「動かせ」と命じてやる必要はない。

 この無意識の動作、改めて本当に助かるなあと思う。自分の意志でやっている(とはいえ「深呼吸」や「瞑想」といった特別な行動でなければ、他の行動と並行しているのだが)呼吸ですら、平常時で毎分15回程度。心拍は毎分ごとに60~90回であるようなので、これの5倍近く行う必要がある。今の5倍の頻度で息を吸ったり吐いたりしていれば、流石に他の作業どころではないだろう。

 その上、心拍は気ままに止めていることも出来ない。うっかり作業を飛ばしてしまえば、脳に血流が届かなくなり速やかに意識が飛ぶ羽目になる。


 心拍のみならず、身体と言うのは、電気信号による筋肉の制御、思考の捻出、消化吸収、排泄……大半の機能が無意識のパッケージに入っていて、主が考える必要がないのである。「二つの作業を同時にこなしてマルチタスク」なんてものじゃない。生物というだけで、既に恐ろしいまでの並行作業が行われている。完璧な統率に基づく、意識と無意識による制御を行うソフトウェア、そして何千何万(もしかすると数億クラス?)の作業をリアルタイムに受けいれる高性能ハードウェア。


 なんという……メカニズムなのだろう。想像しただけで感嘆してしまう。

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