エッセイと現代ドラマ


「今まで論文のような書きぶりだったのに、唐突に物語調になったら、やっぱりビックリするのかな?」

 とまあ、よく分からんことを彰が言うので、対して深く考えずに「おう」と返す。こいつの言うことは大概、唐突で理解が難しいものだが、今回の提案(?)は輪をかけて奇妙だ。

「少なくとも昼休みに同僚と話すものではないな」

「暇潰しだよ、暇潰し」

 暇潰しにしたって、もっとましなものがあるだろう。

 大体、俺の注文した炒飯が運ばれた直後に切り出すとは、どういう了見なのか。

「この飯、食ってからで良いか?」

「それは駄目だよ。その頃にはボクの注文が運ばれてくるから」

 張り倒したい気持ちを抑え、黙ってレンゲで炒飯をすくう。露骨に非難の顔を浮かべる彰を無視しつつも頬張る。

 論文が物語調か……二週間で作った大学の卒業論文を思い出す。威厳が出るようになるべく堅苦しく作ったあの張りぼて、あの文章が突然「○○なんだよね~」と切り替わるのか。

 ひとしきり咀嚼し終えた後、こんな話をしてみる……


「20××年に人工知能が作成した小説が芥川賞を受賞したのは記憶に新しい。この出来事は我々人間と人工知能との距離がごく僅かであることを強烈に印象づけた。芥川賞作家の名はボー=ナンザ、産まれて僅か半年の超若手であるが、10万冊もの小説を読了し、それらを自由に諳じることが出来る能力を持つ。産みの親である伊藤武志氏とは親子であり、友人であり、師弟でもある。伊藤は年季の入ったアームチェアに腰掛けながら語る。『私と彼がそういう関係だったのは、もうかなり前の話ですよ。今や師弟関係は逆転し、彼は私の神になりつつある……』諦観、嫉妬、尊敬……その顔からは超人的な知能に対する複雑な思いが読み取れた」


 思ったよりも説明が長くなってしまったなあ、と独りごちる俺を尻目に、彰は「こういうの週刊誌で読んだことあるな」とまるで見当違いの感想を述べるのであった。

 

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