書くのは軽く、読むのは重い


 どこかで聞いた話だが、ライトノベル、特に流行している異世界転生、悪役令嬢ものというのは「書くのは楽だが、読むのは難しい」部類の本なのだという。

 ここでの「難しい」というのは、これまでに該当のジャンルを読んだことのない人を指している。

 舞台設定やシナリオをテンプレートに沿って書くのは、考える作業が減るのだし、それを求める人々がいるのだから安牌でもある。しかし、テンプレートというやつは要するに前提知識の詰め合わせであり、読む側からすると、知っていなければ想定通りに楽しむことが出来ない。


 読んだことがある人であれば、情報が共有されているから読むのに支障はない。MP、マナ、ステータス、スキル……これらが文脈に唐突に出てきても、「ああ、マナは魔法などを使うために必要な物質で、MPはその人が蓄えているマナの量なのだ(個人的主観)」と納得できるだろう。

 知らない人からすると、「ん、スキル?」となるわけである。仮に「闇属性吸収」とあったとして、それは魔法欄・・・とは別にあるのだろう(体質ということ?)か、それとも魔法の一種によって実現しているものなのか。まさか異世界における資格試験に合格することで得られるものでもないだろうしなあ。

 まあ、分からないでもないのだ。RPGの大半には属性の概念があって、あるモンスターは火に強いが、別のモンスターは弱いと設定している。これはステータスを増やすことで、ゲームの奥深さを高めるため(飽きられにくくする)の工夫である。

 それを小説の場でも再現したということだろうが……それは過去に属性の概念があるゲームをしていた人か、同じ類の本を読んでいる人にしかわからない。分からない人は本文に提示されない限り、なんのこっちゃとなるだろう。


 前提知識が求められるものとしては、過去にはSFが該当していた。急にワームホールやら量子力学やらダークマター、並行世界といったものが登場し「なんのこったかわからないが、かっこいいし壮大だからいいや(個人的主観)」となっていた。

 それと同じことがライトノベルに発生している。SFは設定や整合性の緻密さが厳密に求められている(最低限、合っているか・・・・・・のような説得力のある文体が必要)が、ファンタジーの世界では、その限りではない。なんでもあり、ライトなのだ。だから書く側は少しだけ楽が出来る。

 しかし、読む側としては結局、前提知識が求められる。SFのケースと異なるのは、ジャンル隆盛のおかげで情報の共有がしやすくなっているということだ。そうでなくとも世界的なRPGがいくつもあるのだから、大体の前提知識はその中に盛り込まれている。

 読むのに重さこそはあるが、SFに比べれば相当軽いというわけだ。

 とは言え……省略が多すぎれば、流石に不親切と思われても仕方がないのは事実である。

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