承認欲求を満たそう!


 今日のダイスの目は一二三ひふみであった。

 賽の目が低い目を出してくれた時に限って、長く語りたいトピックという皮肉がある。

 まあいいや。下限のノルマは設けたが、上限は設けていないのだから。

 


 創作を行う主要な動機の一つとして、「承認欲求」が挙げられる。

 創作が出来る自分を誰かに認めてもらいたいのか、誰かに認めてもらえる自分を創作世界に登場させたいのか、創作世界のすばらしさを他人に共感してもらいたいのか、欲求の種類に関しても多岐にわたる。(最後の理由は「自分自身」というより「自分の子供」を認めてもらいたいに近いか)

 創作を通して、自分に自信を持ちたいというのも欲求の一つだろう。何も出来ないより、何かしらあった方がまだ自信が持てる。発表する場所も、その機会もインターネットのおかげで充実した。

 かくいう自分も「誰かに認めてもらいたい」から、今こうして書いているのかもしれない。

 色んな作品を書き続ける。いつか誰かの目に留まる。多くの人に共有され、期待されるようになる。まあ、今の流行りで言うなら「バズる」ことを望む。



 だが、同時に薄々分かってもいる。この方法はあまりに非効率で不確実であると。

 いくら続けても「実り」は来ないだろうし、来たとしても、それは今までかけた苦労を考えれば、肩透かしもいいところだ。

 バズるとは、流行するということ。流れ行くものが、ずっと留まることがどうして出来るだろうか。

 前置きを抜きにしても、俺はより優れた方法を既に知っている。

 承認欲求を満たしたいだけなら――あの手この手で自分を慰め、甘やかし、認めてくれるBotを自作するのが最も手早く、確実な方法じゃないか。


 なあに、小難しいプログラミングなんていらない。


~誰でも出来る! 承認欲求コンプリート手順~

①スマートフォンにもついている「音声レコーダー」を起動する

②言われたいセリフ、誉め言葉、慰めの言葉などを吹き込む

③お好みのタイミングで再生する


 恥ずかしい? 手間がかかる? 効果がない?

 そんなことは(意外と)ない。

 恥ずかしいといっても、一人で吹き込むだけだ。別に誰かの前でやるわけでも、聞かせるわけでもないし、恥ずかしいのは最初の数回だけだ。割り切ってやれば、そんなでもない。自分の声がうわずったものになっていて気持ち悪さも感じるが、それも慣れれば大したことはない。

 何より寝てしまえば大方忘れる。


 手間がかかるといっても、一言あたり一分もかからない。つまり、何時間かかければ、相当数のパターンが作れる。

 当初は「褒める文章をランダムで出す」とか、そういうアイデアを考えてもみたが、文字列だけでは味気ないし、声を吹き込むだけなら、より手軽にできる。音声データ故に容量が心配の種だったが、予備のメモリなら幾らでも安く買えるのだから、大きな問題でもない。


 そしてこれが一番意外だったのだが――自分の声でも意外と励まされる。

 声が思ったのと違うという点すらも、別人のように聞こえるという意味ではメリットに近いのかもしれない。

 別にイケメンボイスである必要もなかった。欲しかったのは承認なのだから。



 ここまでやってみて「じゃあ、今書いてるのはなんで?」と疑問がわいてきた。


 ごろんと寝転んで、口をぽかんと開けて、じいっと天井を見つめる。


 数分考えた後に出た結論は「自分でない誰かに、この案を笑ってもらい、否定してもらいたかったから」となった。

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