役不足


 今日も気ままに賽を振る。さて、出目は13か。それではしばし書くとしよう。

 今回のテーマは……


「やつこそが、『悪役王族殺し』の異名を持つ賊だ! 生き死には問わん、かかれえぃ!」


 主君の言葉を聞き、兵士たちは一斉に槍を向け、臨戦態勢に入った。

 対するユートはサングラスを外して、気だるげに宣戦布告をした。


「退けよ三下ども。あんたらじゃ、役不足なんだよ」



 やだ、かっこいい……

 こんなシーン、書けるんだったら書いてみたいなあ。

 どうせ喋らせるんだったら、こういう徹底的にクサい台詞も喋らせてみたいよね。

 現実世界では出来ないことを実現するっていうのも、創作の強みでもあるし。


 とまあ、わざわざシチュエーションを用意したわけですが、皆さんも知っての通り、クールなユート君のセリフには実はおかしな点があるんですね。

 


 役不足(やくぶそく)

 1.俳優などが割り当てられた役に不満を抱くこと。

 2.力量に比べて、役目が不相応に軽いこと。また、そのさま。



 そうです、役不足は誤用。どっちかというと、圧倒的な力を持っていながら、雑魚を蹴散らす仕事をしているユート君に対して使うべき言葉なんですねえ。


 と、いうのは、分かってはいるんだが……

 

 はああああああ……


 力不足じゃだめなんだよ、しっくりこないんだよ、役不足じゃなきゃああ……

 言い方は多々あるとは思うんだよ。「ウォーミングアップにすらならない」とか「足元にも及ばない」とか。

 ただ、役不足という言葉が持つ、直球の見下し感というか、決め台詞感がない。


 昔は結構(誤用で)使われてた気がするんだけど、色んなところで「この『役不足』の使い方は本来の意味と違ってますよー!」と周知が為されたおかげで、今は気楽に「役不足」と使えなくなってしまった。


 正しい使い方で再現するとなると……


 ユートはサングラスを外して、気だるげに宣戦布告をした。


「退けよ三下ども。俺じゃ、役不足なんだよ」


 うーーーーん

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