第45話 名誉爵位




「さぁ、話してもらうわよ!」




 風呂上がりで寝間着姿のリンジーが、カルマの部屋に飛び込んできた。



 夕食会のあと、リンジーとカルマは、司令本部のゲストルームに宿泊することになったのだ。




「……これから寝るところなんだけど……」



「夜は長いわ。絶対話してもらうって言ったでしょ!」




 明日から、パンツァーファウストとパンツァーシュレックの訓練を行うことになっている。



 たったの三日で、兵士達が実戦で使えるようにする必要があるのだ。

 その教官を務めることになったカルマとしては、早く寝ておきたいのだが……。




「ねぇ、あなた貴族だったって、あれは本当なの? クレイハート辺境伯って……。カルマって伯爵なの?」



「……ああ。第十三代クレイハート辺境伯。ラングレイ家は、リディアス王国の西部国境地帯クレイハートで、代々広大な領地を治めていたんだ」



「……うそでしょ?」



「……本当だよ。王国の西部方面軍司令官を務める由緒ある貴族……だったんだ」



「……本当なんだ。それで、カーター准将は、あなたのことをクレイハート卿って呼んだのね……」



「納得したかい? じゃあ、もう寝るから……」



「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! 納得なんてする訳ないでしょ? 余計に謎は深まったわよ! これじゃあ、私が眠れないわ」




 興奮気味のリンジーは、ベッドにどかっと上がり、カルマの目の前に鎮座した。



 パジャマがはだけて、胸元が見えていた。

 ほのかに石鹸の香りも漂っている。




「お、おい、一応、男なんだぞ! 男子のベッドに上がり込むなんて、元姫様のすることか!」



「私のことはいいのよ! それより、どういうこと? 領地を返上したって言ってたわよね?」



「……別に。俺の父は戦場で負った傷が原因で亡くなったのさ。その前に家督を譲り受けたけど、家訓に従って、王家に領地と爵位を返上したんだ。……まぁ、王はラングレイ家のこれまでの功績に報いようと、爵位だけは認めてくれたんだがね……。むしろ迷惑な話だ」



 ――なるほど。



 それで、領地のない法衣貴族と言うわけか……。

 名誉爵位として、今でも伯爵の地位であり続けているのね……。  




「……うん? 家訓に従って、返上って? 何? どういうこと?」



「……ふーっ、やれやれ、話さなきゃ駄目かい?」



「当然でしょ!」




 ――と言うことは、そこが核心部分か……。




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