第46話 家訓




「……これだよ」




 カルマが取り出したのは、あの在庫帳だった。




「……えっ? これって、在庫帳でしょ?」



「……ああ、この在庫帳はラングレイ家に代々伝わるものなんだ。中を見てみな」




 カルマは、表紙の留め金をはずし、分厚いページをめくって見せた。

 あの白一色の別次元が、いきなり現れるのかと思いきや、特に何も起こらない。




「開いただけで、例の武器庫に繋がる訳じゃないさ」



「そ、そうなんだ……」



「何が書かれているか読めるか?」



「……何これ? 見たこともない文字……。人族の文字なの?」




 細かい文字がびっしりと書き込まれているが、見慣れない文字だった。




「この世界の文字でないらしい……。読める奴はいないだろう」



「……でも、カルマは読めるんでしょ?」



「ああ、読める」



「誰も読めないのに、どうして、カルマは読めるの?」



「……どうして読めるのかは俺にも分からないんだ。だけど、ラングレイ家には、この文字が読める者が現れた時の家訓があったんだ……」




『もしも、この書物に書かれた文字の読める者がラングレイ家に現れた時は、その者にこの書物をたくし、当家は爵位を返上して王国を去らなければならない。そして、そこに書かれた贖罪をすべて成し遂げた時、その者にかけられた呪いは解けるだろう。それが出来なければ王国は滅び、やがて世界は終末の時を迎えるだろう』




「……それが、家訓なの?」



「……ああ、そうだ」



「何よそれ? 訳が分かんない……」




 そんな意味不明の家訓を守って、領地を返上するなんて……。信じられない!




「贖罪を成し遂げないと、王国は滅んで、世界は終末の時を迎えるって……。何? ずいぶん大層な家訓だけど、贖罪って? 成し遂げるって……何を?」



「……」



「カルマ? ちゃんと話して?」



「武器を売ることだ……。この在庫帳に書かれた武器をすべて売ることが俺に課せられた贖罪なんだよ」



「武器を売ることが……贖罪?」



「ああ、この在庫帳に書かれた武器のすべてを売り切った時、贖罪は成就するんだ。……そうすれば世界は救われる。そういうことだ……」




 いったいどういうことなの?

 武器を売ることが贖罪って……。



 ふと気づくと、カルマは小さな寝息を立てて、眠っていた。



 取り残されたリンジーは、まだ納得などしていなかったが、カルマの寝顔を見ると、自分にも強烈な睡魔が襲ってきた。



 自分の部屋に戻るのも面倒なほど、眠くなり、カルマの横で布団に潜り込んだ。



 翌朝、同じベッドで眠っていることに気づいたら、カルマはどんな顔をするだろう。



 想像すると、ちょっと笑ってしまう。



 そして、カルマの話を思い出していた。

 贖罪とは、代償を捧げることで、罪を償うこと。



 それならば、カルマの犯した罪とは何なのだろう……。



 リンジーは、武器を売ることが、罪そのものだと考えていた。



 それなのに……。

 武器を売ることが贖罪だというのだ。



 やがてリンジーは、うとうとし始め、心地よいまどろみの中で、カルマの体温だけを感じていた。





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