第9話 この銃を売ってくれ
――翌日。
リンジーは、夜も明け切らぬ早朝から馬車に揺られていた。
村長が村に帰るためにチャーターした早馬車に便乗したのだ。途中の宿場で馬を入れ替え、ぶっ通しで走り続けても丸一日。
村はまだ無事なのだろうか……。火龍の襲撃を受けて、田畑も村人もすでに焼き尽くされているのではないだろうか……。向かいに座る村長は頭を抱え、激しい揺れに耐えている。
リンジーもこの揺れにはいいかげんうんざりしていた。
いや、揺れと言うよりは、かき回されていると言った方が正しい。
早馬車は、速度を稼ぐために徹底的に軽量化されているので、極めて簡易的な作りの客室なのだ。申し訳程度の座席では、リンジーの小さなお尻は安定せず、揺れに合わせてぴょこぴょこと飛び上がる。そのたびに尻を打ち付け、早くも尻が悲鳴をあげていた。
昨晩、武器商人が披露したデモンストレーションは衝撃的だった。
銃で火龍を退治出来るはずがない――誰もがそう考えていた。しかし、武器商人の銃は、私達が知っているそれとは全く別物だったのだ。
「村長さん。どうですか? 気に入っていただけましたかね。本当なら何か的を撃ったほうがよかったんですけど……。何ならそこの樽でも撃ってみましょうか?」
武器商人がそう言って笑うと、
「ちょっ、ちょっと、カルマさん! 駄目ですよ! 駄目駄目!!」
デシアが血相を変えて、人だかりの中から飛び出した。すでにこれだけの騒ぎになっているのに、冗談じゃない!
「……いや、充分だ。これは……すごい。確かに、これなら火龍を退治できるかもしれない」
撃ち終わった銃はすさまじい熱気を帯びて、銃身からは煙があがっていた。村長は、火薬の臭いと煙で目をしばたたくと、神妙な面もちで言った。
「……しかし、わしらにこんな物が扱えるとは、とても思えん。買ったはいいけど、使えないんじゃ話にならないからな……」
なかなか慎重だ。
「……分かりました。お買い上げいただけるなら、私も村まで同行しましょう。私が直接、使い方を教えます。扱いやすい銃ですから、少し訓練するだけで火龍ぐらいなら撃ち落とせるでしょう」
火龍ぐらいなら撃ち落とせる――。
簡単に言い放った言葉に、周りの野次馬が絶句する。しかし、目の当たりにした圧倒的な銃の威力に、反論する者はいない。しばらく過熱した銃を眺めていた村長は、武器商人の方を見ると、静かにうなづいた。
「カルマ・ラングレイ……さん、だったかい? ……買うよ。この銃を売ってくれ」
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