第8話 MG42
「ええ。『MG42』という機関銃です」
「……え、えむじー? 何だって? きかんじゅう?」
もう、訳が分からない。その場にいた者達全員が同じ気持ちだろう。
「はい。エムジー42と言います。ショートリコイル方式オープンボルトの反動利用式ですが、ボルトシステムを改良し、発射速度を高めています。さらに、プレス加工を多用し、シンプルな構造なので、バレル交換も簡単です。極めて実用的な汎用機関銃ですよ」
得意げに語るが、誰もついて来れない。今の呪文のような話は、おそらくこの銃がいかにすごいかの説明だったのだろう。村長は、ぽかんと口を開けたまま思考停止状態だ。
「……これは失礼。論より証拠ですね。実際に撃っているところをお見せしましょう」
そう言うと、武器商人は、外に出るように村長を促した。
「ちょっ、ちょっと、カルマさん! こんなところで撃つんですか? だ、駄目ですよ!」
慌てたデシアも外に飛び出した。つられてその場にいた冒険者もみんな外に出る。あの銃がどれほどの物なのか……。リンジーも皆の後に続いて外に出た。
「大丈夫ですよ。デシアさん。少しだけですから。ねっ? 無茶なことはしませんよ。実際に見てもらうのが一番でしょう?」
「……もう、本当に少しだけですよ! ただでさえ自重するように役所から警告されているのに……。とにかく、騒ぎにならないようにお願いしますよ」
ぶつぶつとまだ何か言っていたが、デシアの声はそれ以上、聞こえてこない。すでに大勢の野次馬が集まっているからだ。
この辺りは日が暮れても人通りが多い。
ギルドの建物を中心に飲み屋や売春宿が軒を連ねているのだ。ガラの悪い連中が絶えず行き来していれば、役所に目を付けられるのも当然だろう。
やきもきするデシアのことなどまるで構わず、その武器商人は発射の準備を始めていた。
銃の上部にあるカバーを開けてみたり、脇から突き出たハンドルを何度も引いたり、各部を慣れた手つきで点検している。一通りチェックを済ませると、円筒形の箱を銃に取り付けた。どうやらそこに弾が入っているらしい。さらに、三脚のような台座を組み立てると、そこに銃を固定した。
「では、空に向けて撃ってみますね。村長さん。よろしいですか?」
突然、声を掛けられた村長は、はっと我に返った。
「……あっ、ああ、うむ。構わんよ。やってみてくれ」
武器商人は、その銃の唯一の木製部分であるストックを肩に当てると、グリップを握り、低くしゃがんで対空射撃の姿勢をとった。見るからに重そうな銃ではあったが、三脚に固定されているので安定している。火龍退治を想定してのデモンストレーションなのだ。銃口は高角度に上を向き、飛来する火龍を待ち受ける。
――次の瞬間。
空気をつんざく爆音に鳥肌が立った。
連続する発砲音。
銃口から巨大な閃光が明滅し、赤い筋が夜空に吸い込まれていくのが見えた。
リンジーは震えた。 ――私はこの音を知っている。
鎧も盾も、剣も槍も、魔法でさえも、この音の前では意味をなさなかった。すべてをなぎ払う無慈悲なる爆音。
私にとっては、文字通りの世界の終わりを告げる号砲だった。私の父と母を殺し、すべてを奪ったこの音。
間違いない。やはりこの男――、この武器商人がそうなのだ。
「……カルマ・ラングレイ」
リンジーは、熱狂する野次馬の中で一人、憎悪に震えていた。
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