第10話 死の商人



 ――という具合に、あっさりと商談はまとまったのだ。



 リンジーは、このチャンスを逃すわけにいかない。そう考えた。まさか、こんなところでカルマ・ラングレイに会えるとは……。この機を逃すと、もう二度とこの男に会うことは無いかも知れない。




「村長さん。私を雇いませんか?」




 考える前に口をついて出た言葉に、自分でもうろたえていた。




「その銃だけを頼るのは危険とは思いませんか? 私は魔法が使えます。弓だって、精霊の加護を受けた、決してはずれることのない光の矢を放つことも出来ます。お役に立てるはずですよ」




 そう言って、リンジーはかぶっていたフードを取った。

 細長い耳に、透き通るような白い肌は、ハイト・エルフのデシアと同じだが、銀色の前髪から覗く赤みを帯びた瞳は異彩を放ち、それ自体に強力な魔力を感じさせる。村長は少し驚いたような表情を見せると、




「……あんたは、エルフかい? エルフの冒険者か……。いいだろう。あんたを雇おう。冒険者を一人も連れて帰らないんじゃあ、村の連中も納得しないからな」




 ようやく野次馬達が帰り始めたとき、村長は満足げな表情を浮かべていた。 



 ――そんな訳で、今は村長と一緒に早馬車に揺られているのだ。



 それにしても、自分で言い出したこととはいえ妙な展開になってしまった。



 まさか、自分が火龍退治に名乗りを上げるとは……。しかし、あの男……。カルマ・ラングレイに近づくまたとないチャンスなのだ。私の父と母を殺した連中、かつて家臣だったはずのあの連中に、武器を売った張本人――それが、カルマ・ラングレイだ。



 家臣をたぶらかし、武器を売ることで、国を混乱に陥れた死の商人。



 私は奴を許せない。あれほどの強力な武器がなければ、家臣達も馬鹿なことは考えなかったはずだ……。腹の底に溜まるどす黒い感情を抑えられない。



 リンジーはずっとそんなことを考えていた。



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