第5話 カルマ・ラングレイ
武器商人。
カルマ・ラングレイ。カルマ・ラングレイ……。
何度も何度も頭の中でその名を繰り返し、記憶を辿った。いや、思い出す必要などないのだ。忘れるはずもない。心の奥底に呪いのように刻まれたその名をどうやって忘れることができようか……。
「……武器商人だって? 武器商人が何の用なんだね? わしは冒険者を雇いに来たんじゃ! 武器を買いに来たんじゃない!」
村長は、その若い武器商人を睨みつけた。
ギルドに出入りする業者は多い。
研ぎ師に甲冑師、魔道具屋に薬草売り、靴に服に旅道具、食料に酒、質屋に両替屋、要らなくなった武具の買い取り業者などなど、枚挙にいとまがない。冒険者相手の商売は、すべてギルドが取り仕切っている。商魂たくましいギルドの重要な収入源なのだ。だから、ここに武器商人がいても何ら不思議はない。
「村長さん。冒険者が見つからないなら、武器を買って、自分達で退治するのも一案ですよ。カルマさんに相談してみてはどうですか?」
デシアの提案に村長はすぐに首を振った。
「馬鹿なことを言わんでくれ! わしらはただの百姓だぞ! 毎日、畑を耕しているわしらが、剣や弓をいくら買っても使える者なんているわけないだろ!」
村長の言うとおりだ。
村人が武器を手にしたからといって、どうこう出来る相手ではない。なにせ相手は熟練の冒険者でも手を焼く火龍なのだ。しかし、その若い武器商人には、村長の反応は想定の範囲だったのだろう。静かにカウボーイハットを脱ぐと、自信に満ちた笑みを浮かべて言った。
「大丈夫ですよ。剣や弓をお売りするつもりはありません。私がお勧めするのは『銃』ですよ。火龍退治にもってこいの『銃』はいかがでしょうか?」
薄暗いランプの下で、武器商人の眼光が際立っていた。
短めの黒髪はきれいに整えられており、清潔感と品の良さすら感じる。瞳は青く、少し日に焼けてはいるが、肌は白い。おそらくは二十代前半と思われる人族の若者だ。
武器商人――カルマ・ラングレイ……。
リンジーは、初めて見るその顔に釘付けとなっていた。
この男が……カルマ・ラングレイ……。
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