第4話 武器商人


「デシアさん! いったいいつになったら退治してくれる冒険者が見つかるんですか? もう二週間も待っているんですよ?」




 リンジーが宿泊する部屋に戻ろうとしたとき、初老の男性が受付に詰め寄った。




「村長さん。そう言われましても……なかなか引き受ける冒険者がいないんですよ……。私どもでもいろいろ当たってはいるんですが……」




 デシアが困り顔でそう言っても、村長は納得しない。事態が切迫しているのは、誰の目にも明らかだった。




「今、幾つかのパーティに打診していて、その回答待ちなんですよ。もう少し待って下さいね……」 




 いくら打診しても望み薄なのだろう。デシアの声がさっきよりも小さくなっていた。




「……そ、そんなぁ、それじゃあ、冒険者が見つかる前に村は全滅だ! いったい何のためのギルドなんですか? 魔物から住民を守るのが冒険者じゃあないんですか?」




 村長は、その場にいた冒険者らに訴えるように大声をあげた。十人前後はいたと思うが、皆ばつが悪そうに顔を逸らし、中にはすごすごと出て行こうとする者もいた。これでいったい何が冒険者なのだ。



 ――リンジー……自分はどうなの? あなたは冒険者なの? 



 首から下げた三万イーゼルの認識証がまるでおもちゃのように見えた。



 ――その時だ。リンジーの背後に気配を感じた。




「村長さん。そういうことなら、武器を買いませんか?」




 不意をつく男の声に皆が振り返った。



 薄茶色のロングコートにカウボーイハットをかぶった長身の男が立っていた。何の防具も身につけておらず、帯剣すらしていない。明らかに冒険者とは違う出で立ちだ。革製の大きな四角いカバンを右手に提げて、左手はカウボーイハットのつばを掴んでいる。




「引き受けてくれる冒険者がいないのなら、自分達で退治するしかないでしょう。それには武器が必要です。私がご用意しましょうか?」



 ――まだ若い。



 落ち着いた佇まいではあるが、声の調子で分かる。カウボーイハットのつばに隠れて、顔のすべては見えないが、細面でありながら精悍な面構えであることは見て取れた。



 ――何者なの?



 その男は、リンジーのすぐ脇を通り越し、村長に近づいた。

 すれ違いざまに一瞬、男の目がリンジーの視線と重なると、その鋭い眼光に動揺してしまった。

 まるで年老いた熟練の冒険者のような、幾つもの絶望を知っている—―そんな瞳の深さだった。




「……武器だって? あ、あんたはいったい、誰なんだね?」




 村長がいぶかしげにその男の顔をのぞき込もうとすると、デシアが間に入ってきた。




「村長さん。こちらは武器商人のカルマ・ラングレイさんですよ」




 ――――カルマ……ラン……グレイ……。



 リンジーはその名を聞いて凍り付いた。









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