第3話 デシア・スナッチバーグ
「リンジーさん。こんばんは。食事はお済みですか?」
「はい。今、食べてきました」
受付のデシア・スナッチバーグが、親しげな笑顔で話しかけてきた。
初めて訪れたギルドの受付で、彼女を見た時は本当に驚いた。白い透き通るような肌はリンジーも同じだが、自分よりも細長い耳に、金色の瞳。エルフの中でも特に希少種である『ハイト・エルフ』に会うのは初めてだったからだ。
山岳地帯の少数民族で高い魔法能力を持っているだけでなく、生来、心を読む能力を持っていると言われている。そんなレアなエルフがなんでこんなところに……。
「デシアさん。あの『火龍退治』って、まだ残ってるんですね……」
「ええ、そうですね。まぁ……なかなか受ける人はいないかも知れないですね」
「へぇー、火龍退治ってそんなに大変なんですか?」
リンジーが聞くと、デシアは金色の瞳をまん丸に見開いて、
「そりゃあ、そうですよ。火龍退治なんてやっかいなもの、誰もやりたがりませんよ!」
さっきのたむろしていた冒険者らと変わらないことを言う。火龍とは、体長二、三メートルほどの小型のドラゴンで、口から炎を吹き出す危険な魔獣だ。通常は火山地帯に生息するが、稀に人里まで降りてくることがあった。
「必ず五から十匹程度の群で行動するし、小型で飛行速度もすごく速くて、すばしっこい。火力も強力で、鎧や盾では防ぎきれません。そもそも飛んでる魔獣を退治するなんて……誰でも出来ることじゃないですからね」
それもそうだ。飛んでくる火龍を撃ち落とすには特別な魔道具が必要だろう。小手先の攻撃魔法など当たるはずもない。もちろん通常の弓では撃ち落とすのは不可能だ。銃ならとどくかも知れないが、撃ち落とせるほどの威力もないし、そもそも当たらない。腕自慢の剣士など、なおさら何の役にも立たないのだ。
ならばどうするか……。巣穴を見つけ、待ち伏せし、寝込みを襲うのがセオリーだろう。しかし、当然簡単なことではない。まず、巣穴を見つけるのが至難の業だ。人が近づけないような火山などの危険な高所にあるからだ。たとえ見つけても、そこで退治するのは極めてリスクが高い。逃げ場のない状況で失敗すれば、まず生きて帰ることは出来ないだろう。
「……そんなリスクをおかす冒険者など……いないわね……」
もちろん自分自身も含めてのことだ。リンジーはひとり納得し、大きなため息をついた。
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