第2話 冒険者ギルド


 リディアス王国の西部国境地帯。



 小さな宿場町にその冒険者ギルドの支部があった。宿泊施設と酒場が併設されたその支部は、この辺りでは一番大きな建物でひときわ異彩を放っている。小さな町ではあるが、行き交う冒険者や出入りの業者でそれなりに活気があり、さながら『ギルド城下町』といった趣だ。



 もちろん役場もあるし、王国軍の兵士も駐屯しているが、規模は小さく存在感は薄い。隣国との小競り合いがあればこの辺りの領地を治める貴族が出張ってくるが、そうでなければ普段はこんなものだ。頻繁に出没する魔族など、いちいち軍が対応していたらきりがない。結局、冒険者頼みというのはこのご時世なら仕方ないのかも知れない。



 リンジーがここにたどり着いて一週間。



 ギルドに三万イーゼル支払って、冒険者の登録を済ませた。首からかけるペンダントのような『認識証』が唯一自分を冒険者だと証明する。



 あっけないほど簡単だ。



 冒険者という響きに、英雄譚のようなロマンチシズムを感じるのは事実だが、それにしても、英雄が聞いて呆れる。



 実際、ギルドに出入りする冒険者達と言えば、兵隊くずれやお尋ね者、山賊まがいの連中も珍しくはない。せこい小物退治で日銭を稼ぎ、せっかく稼いだ金もその日の飲み代に消えていく。その日暮らしの刹那的な生き方で、無駄に命を散らしている。ロマンとはおよそ無縁の連中ばかりだ。



 それでも、国を追われたエルフ族の自分にとって、下界で生きていくには冒険者という肩書きはいろいろ都合がよかったのだ。



 人族以外の亜人種が大勢いて、目立つことなく紛れることが出来る職業など他にはない。流れ者という意味では他の冒険者と何も変わらないのだ。彼らを馬鹿にする資格など自分にはない。行き場を失った、寄る辺なき者達が最後にたどり着く場所――それが冒険者ギルドなのかも知れない。



 食事を終えたリンジーは、部屋に戻る前に、何となくギルドの受付窓口に立ち寄った。



 夕暮れ時のこの時間帯に新しい仕事が張り出されることはあまりないが、魔族が頻繁に出没する昨今では、急ぎの仕事が時折舞い込むことが増えているのだ。それを当てにしているのだろう。この時間にも関わらず、掲示板の周りには似たような冒険者が何人もうろうろしていた。




「……たくっ、ろくな仕事がねぇぜ」



「見ろよ。この火龍退治。もうずっと張り出したままだぜ。やってみるか?」



「冗談言うな! そんなやっかいなもん誰もやんねぇよ」




 張り出された仕事の内容と報酬を天秤に掛け、ぶつぶつ言っている様子はもう見飽きた。本当の意味で冒険をする冒険者など一人もいない。みんな楽して稼げる割のいい仕事を探している。



 あちこちで戦乱が渦巻くこの時代、いつの間にか世界はおぞましい魔物で満ちあふれていた。おかげで冒険者が仕事に困ることはない。割のいい仕事は早い者勝ち。面倒な仕事は、当然敬遠される。それでも報酬が高ければ飛びつく輩もいるが、どう言うわけか、面倒で手間のかかる仕事はたいてい報酬も安いのだ。



 そう、この張り紙――火龍退治のように。

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