第4話 魅惑のガーターベルト -1-

 黒羽と七年ぶりの再会を果たしてから、明日で一週間が経とうとしていた。


 今日は夏休み最終日。つまり、明日から二学期が始まる。

 長そうで実は短いのが夏休み。本当に、あっという間の日々だった。

 そんな日常も、メイド服姿の幼なじみに起こされることによって、非日常へと変わっていく――。


「ふふっ。おはよう♪」

「……おはよ」


 

 枕元にあるスマホの画面を点けると、そこには朝の九時と映し出されていた。


 ………………。


 黒羽が起こしてくれるようになってから、夜更かし続きの生活が改善されつつあった。


「ふふっ」

「……なんだよ、急に」

「別に、なんでもないよ~♪」


 朝から元気なものだ。その元気がどこから湧いて来るのか、教えて欲しいくらいである。


 それにしても、今日のメイド服は……いいね!


 ふと下げた視線の先には、前とは別のメイド服。今回の特徴は、可愛らしいヘッドレスもさることながら、首元の大きな赤いリボンと、ひざ丈くらいのミニスカート。それに、白のストッキングが相まって、黒羽の可愛らしさを更に高めていた。


「――――ねぇねぇ、あ―君。私の話、聞いてる?」

「ん? あ、ああ、聞いてるぞ」

「……? じゃあ、もう一度言うよ。今日の朝ご飯は、何にする?」

 食事の準備に関しては、二人で相談して互いに一日交代で作ることに決まった。

 お互いに料理があまり得意ではない以上、補い合っていくしかない。ちなみに、今日の食事当番は、黒羽だ。


「そうだな……」

 

 昨日は朝昼晩と三食分の食事を用意したのだが、これがまたとても大変だった。今までなら自分の分だけで済んでいたけど、それが二人分となれば話が変わってくる。何故なら、相手の好みや苦手なものを考慮しなければならないからだ。


「昨日の朝がパンだから……今日は、白米でいいんじゃないか?」


 朝はなるべく偏らないように、ご飯とパンを交互にしている。


「オーケー!」


 そう言って黒羽は、仰向けの俺の上から移動しようとする。


「ああ、わかった――って!?」


 返事をしてから不意に視線を下げると、メイド服のスカートがずり上がって、白いあるものが見えてしまった。

 それは、今、黒羽が履いている白のストッキングと共に、彼女の脚を包んでいる白いライン。



 白のガーターベルトを……――。



「――――――」


 チラッと見えるガーターベルトに魅了されたのか、目は釘付けになっていた。それに、自分の心臓が高鳴っているのがわかる。


「……? どうしたの、あ―君?」

「!? い、いや……な、なんでも、ないぞ……!?」

「……そう? なら、いいけど」

「……あ」


 黒羽が不思議な顔でベッドから立ち上がると、ずり上がっていたスカートの裾が元に戻った。そのせいで、チラッと見えていた魅惑的なガーターベルトが見えなくなってしまった。


「?」


 黒羽は、そんな様子が気になったのか、ちょこんと首を傾げた。


「もしかして、メイド服に何か付いてる?」

「え……。いやっ、なにも……」


 言える……訳がない。今、お前が付けている白のガーターベルトに釘付けになっていた事なんて……。

 そんな心情を知らない黒羽は、俺の言葉を聞いて納得したのか、扉の方へと向かう。


「あー君、早く起きてね!」

「ああ、わかったよ」


 一言言い残して、黒羽は部屋を出て行った。残ったのは、ベッドの上でぼーっとしている俺だけ。


「…………」


 今、頭の中では、さっきのチラッと見えた時のシーンが、何度も再生されていた。


 ――ガーターベルトって、あんなに……。




「ねぇ、あ―君。あの時計、止まってない?」


 朝食を終えて、ソファーの上で寛いでいると、黒羽が壁にある時計を指さしながら声をかけてきた。

 俺は、何気に見ていた新聞をローテーブルの上に置いて、時計を確認する。


「ん? あ、ほんとだ」


 確かに、時計の針は止まっていた。それも、ついさっきまでの時間を指している。


 電池って、どこにあったっけ。


 止まったからには、新しい電池を探すしかないと思い、リビングの端にある棚から電池を探ことにした。


「えぇーと……電池は…………あ、あった」


 いくつかの引き出しを開けて探していくと、丁度真ん中の引き出しに探していた電池が入っていた。


(しっかし、電池ってここにあったんだ……)


 一人暮らしを始めてからというもの、今まで電池交換をする機会はなかった。

 まぁ、これで電池がどこにあるのかは、わかったから忘れないように気を付けよう。


 一方、その頃、黒羽はというと、イスに乗って壁にある時計を取ろうとしていた。



「もう少し……あ、取れた! ――あわわわわぁ!?」


「おーい黒羽、新しい電池持って来たぞ――っ!?」



 視線の先では、時計を取った黒羽がバランスを崩して後ろに倒れようとしていた。だが、咄嗟に黒羽の傾く体を後ろから支えることに成功した。間一髪とは、この事を言うのだろう。


「あぶなかったー。ありがとう、あ―君」

「はぁ……。気を付けてくれよ」

「はぁーい」


 と返事をする黒羽。

 ほんとにわかってるんだか……。


 兎にも角にも、怪我がなくてよかったと安堵していると、黒羽は時計を持ってイスから降りた。その時、


「!?」


 スカートの裾がめくり上がり、再びあれが見えてしまった。


「――――――」


 黒羽が床に着地するまでの一瞬が、とてつもなく長く感じた。


 ……って、あぁ~いかんいかん!!


 今の光景に目を奪われていると、黒羽は時計に入っている電池を新しいものに入れ替えて、再びイスの上に乗ろうとしていた。


「あ、後は俺がやるから、黒羽は休んでいてくれ!」


 イスに片足をかけたところで、黒羽がこちらを見てくる。


 その時もまた、あれがチラッと見えてしまったので、慌てて顔を逸らす。


「え? いいよ、私がやる!」

「だ、大丈夫だから、なっ?」


 視線だけを黒羽に向けて話すのがやっとだった。


 ………………。


 つい見てしまいそうになる気持ちを必死に抑える。


 すると、


「う~ん……わかった。じゃあ、休憩も兼ねて、紅茶入れてくるね!」


 そう言って時計を俺に渡すと、黒羽は紅茶の準備のためにキッチンへと向かった。


「……――――はぁ……」


 黒羽に見えないようにしながら、深くため息をこぼす。


 恐らく今日は、あの白のガーターベルトに、ドキドキしっぱなしになると思ったのだった――。

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