第5話 犯人はこの中にいる(特定済み)
ついに明日、単行本第8巻が発売されます。
色々と衝撃の展開が満載なので、書店にお立ち寄りの際には、
ぜひよろしくお願いします!
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「ブレッドン!!」
嗚咽を上げたのは、バーディーだった。
昨日、俺に見せた勇者としての顔、あるいは女としての顔。
そのいずれでもない。ただその表情は悲しみに溢れていた。
「バーディー、堪えてください」
バーディーを抑えていたのはリプトだった。
現場を荒らしたくないという理由で、バーディーを羽交い締めにしている。
スネークガールと一緒に説得するも、半狂乱のバーディーは部屋の中に入ろうとしていた。
マジか。こんな雪山の温泉宿で殺人って……。
魔王様に誓って、俺じゃない。
前にも言ったが、ここで勇者たちを殺すメリットがないからだ。それにいざ殺すというなら、全員を昨晩のうちにやっていたはずである。たった1人だけを殺すなんてあり得ない。さらに加えるなら、俺なら即死魔法を使うはず。わざわざ屈強な戦士の胸を、ナイフで一突きなんてしない。
割と雑な殺しだから、たぶん犯人はすぐに見つかるだろう。
推理してやってもいいが、くだらないことで俺の頭脳を使いたくない。
それに俺にはこれがある。
【
勇者たちが言い争っているすきに、俺は【
どれどれ……。一体誰がやったんだ?
『痴情のもつれで、カッとなったバーディーに刺される』
つまんねぇ……。
痴情のもつれ? はあ? カッとなって刺した? はあ??
極めつけは、絶賛髪を振り乱して暴れている勇者様が犯人という点だ。
救えねぇなあ。勇者様を怒らせた男も男だが、女も女だぞ、これ。
やれやれ……。
俺が息を吐いていると、ようやくバーディーは大人しくなる。
ポロポロと涙まで流す勇者を、スネークガールが人形劇風に慰めていた。
子どもならまだしも逆効果じゃないのか、その慰め方は。
「誰よ! 一体誰が殺したのよ!!」
いや、お前だよ!
「落ち着いてください、バーディー。もう少しブレッドンのことを調べてみましょう」
聖人のリプトがブレッドンの部屋に入っていく。
いつかエリーテに聞いたことがある。人類のパーティーメンバーの間で殺人があって、僧侶あるいは神官の地位にあるものがいた場合、そいつに捜査権があるのだという。理由は清廉で潔癖な僧侶や神官が犯罪を犯すはずがない、というものだった。なんともざるな理由だ。
リプトは脈をとったり、魔法で人の気配を探査したりする。
しかし、めぼしい証拠は出てこなかったらしい。
「ブレッドンが死んでいること以外、これといったことはないですね。ナイフについた魔力の残滓なんかも綺麗になくなっています」
「まったくわからないってこと?」
「いえ。1つ確かなことがあります」
リプトは瓶底眼鏡をくいっと上げる。
実にイラッとする動きの後、リプトは大げさな動きで外を見た。
「簡単ですよ。外は猛吹雪。ここから麓の村まで降りるにはかなりの時間がかかる」
「何が言いたいの、リプト」
「犯人がこの山小屋から出た可能性は低い。つまり――――」
犯人はこの中にいるってことです!!
「ええええええええええ!?」
「にょろぉぉぉおおおお!?」
いや! そんなの当たり前だろ。
ドヤ顔でいうな、そんなこと。
見てるこっちが恥ずかしくなるわ。
「そんな……。私たちの中に犯人がいるですって」
ビックリしすぎだろ。それに犯人はお前だ。
勇者パーティーに動揺が走る中、1人探偵を気取るリプトは眼鏡をあげる。
段々その動作がめちゃくちゃウザくなってきたわ。
「正直に言うと、犯人の目星はついてる」
「え? ほ、本当にリプト?」
「ああ。君だ。バーディー」
「え?」
突然自分を指名され、バーディーは息を呑んだ。
先ほどまで悲しみにくれていた悲劇のヒロインは、その場に呆然と立ちすくむ。
「ブレッドンの身体はかなり鍛え上げられている。小生やスネークガールではあんなに深々とナイフを突き立てることができない。しかも、心臓を一突きだ。そんな真似ができるのは、ここにいる中で君しかいない」
おお! いいぞ、リプト!!
なんちゃって探偵かと思いきや、結構的を射た推理をするじゃないか。
いいぞ。やれやれ。そのまま勇者をつり上げろ。
しかし、バーディーはただでは転ばなかった。
「ちょっとリプト。何か忘れてないかしら」
「何が言いたい、バーディー?」
「私たちの使命よ?」
バーディーは胸に手を当てる。
「魔族よ。私たちはここに魔族が来るという情報を得てやってきた。魔族がブレッドンを殺した可能性は高いんじゃない?」
こいつ! 自分が殺したくせに、いるかどうかわからない魔族に罪をなすりつけやがった。
ひでぇ。俺、人類とか魔族とか関係なく、悪いヤツはごまんと見てきたが、バーディーの行動は10本の指に入るぐらいの〝悪〟だ。こいつ、本当に勇者かどうかも怪しいな。こいつを選んだ聖人もたいがいだけどな。
「確かに……」
確かに……じゃねえよ、リプト!
あっさりと自説を曲げてるじゃねぇ。
お前の考えは正しいんだ。そこは自分を押し通せ!
「魔族なら動機もあるし、ブレッドンを一突きにできるのも納得できる」
ギャアアアアアアアア!
こいつ、見た目通り頭が固い奴だったんだな。
いや、むしろ逆か。優柔不断って奴だ。
「ならば、バーディー。あなたは誰が犯人だと考えているのですか?」
「決まってるじゃない」
勿体ぶった動きで、バーディーの腕が上がる。
人差し指を立てると、ゆっくりと下げていく。
その指の先にはちょうど俺が立っていた。
「『七転温泉』主人ロウンド・ナナコロフ! あなたよ!!」
てめぇ、言うに事欠いて、俺を犯人するとはいい度胸だな。
お前みたいなことを、人類はこういうんだろ?
親の顔が見たいって……。
別にお前の親には興味がねぇけど、勇者様の面の厚さには興味津々だわ。
本当なら怒髪天を衝くところだが、はっきり言って大ピンチである。
俺が犯人ではないことは間違いない事実なのだが、魔族であることは大当たりだ。
実際、こいつらから度々疑われているしな。
バーディーは俺を睨む。
部屋にいるリプトもさりげなく魔力を手に集中し始めた。
スネークガールだけが、蛇と一緒に首を振って、事態を眺めている。
まさしく一触即発。その四文字熟語にふさわしい状況だ。
「主人さん。弁明があるなら聞くわよ」
追い詰めるバーディーに対して、俺は肩を竦めた。
「先ほどをから何を仰っているかわかりませんね。犯人? 刺された? 一体誰が死んだというのですか?」
「何を言ってるの? ブレッドンが死んで――――」
ふわ~。よく寝た。
大きく伸びをし、起き上がったのは当のブレッドンだった。
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