外伝 Ⅳ とあるゴーレム使いの恋噺➉

「ククク」単行本6巻、好評発売中です。

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~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~



 こうして大魔神族の野望は、正義の巨大ゴーレムによって打ち砕かれた。


 大魔神族たちの計画が白日の下にさらされたことによって、俺を拘束した石像魔人たちは謝罪。当然だわな。俺が横やり入れてなかったら、今頃ストーナは誘拐され、石像魔人たちは大挙してノイヴィルに襲いかかってたかもしれない。


 救世主って柄じゃないが、俺が石像魔人の里を救った陰の立て役者だったことは間違いないだろう。


 こんな目立つことはもう2度やりたくないが、これも依頼達成のためだ。ローガン爺さんの悩みを解消するためにも、今回は仕方ない。


 さて、そのローガン爺さんと、ストーナだが……。


「ええ? 結婚しないの、2人とも」


「よろしいのですか?」


 急遽決まった2人の路線変更に復帰したパフィミアと、シャロンが目を丸くする。


 大恋愛から一転、結婚を解消することになった2人の顔は、どこか晴れ晴れとしている。


「はい。2人で決めました」


「それぞれ気づいたのだよ。何が大事か……」


「私には家族が……。そしてローガンには、ゴーレムが……」


「そう。わしにはゴーレムがいるからな」


 ローガンも、ストーナも頷く。

 しかし、お子ちゃまには2人の心境がわからないらしい。

 頭に「?」を浮かべて、首を傾げていた。


「ししょーからも言ってよ。勿体ないよ。2人とも好き合ってるのに」


「そうです。魔族と人類……。2人ならいがみ合う両者の架け橋に」


「それにゴーレムならまた作り直せばいいじゃないか!」


「わかってねぇなあ、パフィミア」


「え?」


「姿形は同じ物を作れても、そこに宿った魂は一緒じゃねぇんだよ」


 俺の言葉に、ローガンが強く共感する。


「さすがはカプア殿。その通り。芸術も同じ、そしてゴーレムも同じ。作り上げたものを作り直しても、それはまた別物なのじゃよ」


「?」


「お嬢ちゃんたちにもわかる時が来る。本当に自分にとって大事なものが見つかればな」


 最後にローガンは、うちの自称弟子どもを丸め込んだ。


「それでこれから石像魔人族はどうするのですか?」


 ローガンが質問したのは、ストーナの父親だ。

 ローガンと娘の会話に、やや複雑な表情を見せて、聞いていたストーナの父親はこう言った。


「これで大魔神族との関係を解消したとすれば、何らかの報復が来るでしょう。里もこの有様。なので、さらに北へ向かおうかと。あそこには中立宣言する精霊族がたくさん住んでいるので」


「だから、ここでお別れなのです」


「そんな……。折角、魔族の友達ができたと思ったのに」


 パフィミアはペタンと耳を垂らす。


 ローガンの爺さんよりお前が落胆してどうするんだよ。

 そもそも魔族の友達なんて作らなくても、お前の師匠は魔族だっての。

 口が裂けても言わないがな。


「ああ……。その、な。大魔神族の報復のことだが」


「どうかしたのですか、カプソ……じゃなかった、カプア様」


「俺の方でどうにかできると思う」


「本当ですか?」


「ああ。だが、またお前たち中立魔族を狙って、魔族が接触してくるかわからねぇ。北に広がる精霊の森に逃げ込むのは正解だと思うぜ」


 あと、さっきストーナの親父には忠告したんだが、くれぐれも俺が魔族だってことはバラすなよ


 その時は、ローガン爺さんの元恋仲であろうが、容赦なく即死魔法をぶっ放すからな。


「ししょー、すごいね。魔族にまで顔が利くの」


「さすが、聖者様です」


「あ? ああ、ま、まあな」


 これでも魔族の中枢と繋がってるからな、お前らの師匠は。


「それにしても気になっていたのですが、どうやって石牢から脱出できたのですか? あの血は一体?」


 とストーナの父親。

 血と聞いて、シャロンも反応した。


「そういえば、聖者様。珍しくお怪我をなさっていたようですが……」


「ししょーが怪我するなんて一体、何をしていたの?」


 え? あ? せ、説明してやってもいいが……。

 さすがに亜屍族の秘密をいうわけにもいかねぇからな。

 それにお子様に聞かせるのもちょっとっていう、グロい話だ。


 片方の手をこう、肩から切ってだな……。


 まあ、そういう話である。


「18禁だな」


「じゅうはちきん? 何それ技の名前?」


「ま――――そんなところだ。お前らがもっと大きくなったら、説明してやるよ」


 俺はパフィミアの頭をくしゃくしゃに撫でて、誤魔化すのだった。



 ◆◇◆◇◆



 石像魔人族の里を辞し、俺たちはノイヴィルに帰ってきた。

 顛末をマケンジーとカーラに報告する。1歩間違えれば、ノイヴィルに炎獣軍団以来の厄災が降りかからん事態を回避したことに、俺は再び感謝された。


 胴上げというものこそなかったが、俺の名声はまた上がったらしい。


 だが、大丈夫だ。


 俺はもうこれからは冒険者カプアでもなくなる。え? 勇者? 領主? どこの世界線の話をしてるんだよ。


 そう。ここからがご褒美タイム。

 世界的有名な芸術家の悩みを、スマートに解決した手腕を、ローガンの爺さんもバッチリ現地で見ていたはずだ。


 爺さん! もうわかっただろう。俺の優秀さを。


 さあ、俺をローガンファミリーの一員に招くのだ。


「カプア殿、お主には本当に世話になったな」


「いえいえ。俺は迷える子羊を導いただけですよ。だから、早く俺を秘しょ――――」


「うむ。そなたなら作って良いかもしれんな」


「へっ? 作る?」



 何を???






 数日後……。


 俺はノイヴィルの街の中央に立っていた。

 手にはロープ、もう片方の手には鋏を持っている。


「それではロープカットお願いします」


 既視感かな? 俺、この光景どっかで見たような気がするんだが……。


 ロープを切ると、鳩が飛び、盛大な音楽と、あと鳩の糞が俺の黒ローブに落ちてきた。


「おめでとう、ししょー」

「おめでとうございます、聖者様」

「うむ。いい出来だ」

「そっくりですよ、カプア博士様」


 パフィミア、シャロン、マケンジー、カーラが祝福する。

 多くのノイヴィル市民たちも、俺に賛辞を送った。


 ……どうしてこうなった。


 俺は恐る恐る振り返る。

 夢なら醒めて欲しいと願ったが、そこにあるのは現実だった。


 そこには俺が立っていた。


 正確にいえば、俺そっくりの石像である。

 それがノイヴィルの憩いの場でもある中央広場に鎮座していた。


 まるで「少年よヽヽヽ、大志を抱け」とばかりに、指を向けているが、よく見ると手はデコピンの形をしていた。


 俺そっくりな石像は、ただの石像ではない。

 芸術性も高く、事実市外からもひと目見ようと、批評家や芸術家たちがこぞって集まっていた。


「どうしてこうなった……」


 おかしい。俺の計画では今頃、ローガンの爺さんの秘書として、世界中を飛び回っていたはずなのに……。


 気が付けば、俺は石像を見ながら、泣いていた。


「泣くほど喜んでくれるとは、芸術家冥利に尽きるというものだ」


 当の本人も現れ、満足そうに笑っている。


「な、なんで、俺の石像なんか作ったんだよ」


「なんじゃ。お主……。聞いておらんかったのか? わしの悩みを解消してくれる代わりに、その者の石像を作ると」


「へっ?」


 俺は後ろでホッコリしているシャロン以下メンバーに振り返る。


 すると、マケンジーが口を開いた。


「ローガン、助かったわい。お主がスランプに陥っていると聞いた時はどうなるかと思ったが……」


「マケンジー、これはあんたの仕業か?」


「違うぞ、カプア殿。これは市民の総意だ。前々から、この街には何か足りないと思って、シャロン様に相談したら、お主の石像を建てようという話になってな」


「しゃ、シャロンが!!」


 俺がシャロンの方を向くと、本人は満面の笑みを振りまいた。


「はい。聖者様はそれほど偉大な功績を立てられたのですから」


「ししょーなら石像が立ってもおかしくないよね。むしろ、今までなかったのがおかしいよ」


 馬鹿野郎! どこの世界に、人間の街に自分の石像を建てる、自己主張の激しい魔族がいるんだよ!


 ……とはいえず、俺は項垂れることしかできない。


 セカンドライフが……。

 老人と一緒に、屋敷で優雅なセカンドライフを夢見ていたのに。


「くそ……」



 こんな街! いつか絶対出てってやる。



 そして目指すのだ。

 俺のセカンドライフを!!



 ◆◇◆◇◆ 一方、大魔神族は…… ◆◇◆◇◆



 石像魔人の里から逃げ出したガンケツたちの姿は、西にある魔族圏と人類圏の境目を越えて、大魔神族たちが住む村にまで迫っていた。


 意識が戻ったとはいえ、ゴーレムにぶん殴られたガンケツは足を負傷し、立つこともままならない。

 直撃を受けた頬は崩れたままで痛々しい姿をさらしていた。


「くそ! 石像魔人め! 俺様たちを虚仮にしやがって!! 見てろ! 誰に喧嘩を売ったのか。わからせてやる」


 仲間に支えてもらいながら、ガンケツはついに大魔神族の村に着く。

 傷付いた自分を見て、同族たちが心配してくれるだろうと思っていたが、そうではない。


 村の前で整列した同族たちの目は恐怖に彩られていた。


「やっと来たわね」


 その中央に立っていたのは、大魔神族ではない。


 美しく広がった明るい黄色の髪。

 肌もうっとりするほど白く、触れるまでもなくその柔らかさを想起させる。

 何よりほぼ裸といっていい姿でも、ガンケツの性癖を捕らえる均整のとれたプロポーション。


 そこに立っていたのは、天が遣わした女神であった。


「まさか……。閃嵐せんらんのルヴィアナ様。どうして、ここに……」


「あなたがガンケツ?」


「そ、そうですが……」


「そう」



 終曲ネヴィラ真嵐必閃ストーム



 風が噴き上がり、渦を巻いた瞬間、ガンケツの視界が反転する。覚えているのはそこまでだ。強烈な風の圧力によって、頑丈なはずのガンケツの身体はバラバラになる。


 それを見て、ガンケツに付き従った者たちは逃げたが、同じく風の力によってバラバラになった。


 ただの者言わぬ岩塊となったものたちを見て、ルヴィアナは冷たく言い放つ。


「魔族をけしかけ、人間の街を襲わせるのはいいとしても、中立を宣言している魔族を使うなんて。なんと汚らわしい。しかも、人質を取るなんて言語道断だわ。風化するまで、そのまま転がってなさい」


 そこまで言ったルヴィアナは、村に立っていた大魔神族たちの方を見る。


 四天王の力に、皆の顔がタンザナイトのように青くなっていた。


「今日は首謀者だけに責任を負わせたけど、今度やったら村ごとを吹き飛ばすわよ。わかったわね」


『は、はい……!!』


 ルヴィアナの所行というよりは、彼女の迫力に負けて、大きな大魔神族たちは頭を下げる。


 ルヴィアナはその態度に何も言わず、風を巻き起こして、魔王城への帰還の途についた。


 胸の中から1枚の手紙を取り出す。

 そこには大魔神族の悪行が書き連ねられている。


 名前は入っていなかったが、ルヴィアナには誰がしたためたかバレバレだった。


「文字でわかっちゃうわよ、バーカ」


 ルヴィアナは腹いせに紙を風でバラバラに引き裂くと、そのまま魔王城へと飛んでいくのだった。

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