外伝 Ⅳ とあるゴーレム使いの恋噺⑨
『ククク』単行本6巻、好評発売中です。
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そちらも是非よろしくお願いします。
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「くわはっはっはっはっ!!」
ガンケツの言葉が、里一帯に響き渡る。
いや、それどころじゃねぇ。
遠くのノイヴィルにまで聞こえかねない大きさだ。
百歩譲って声の大きさはともかくとしても、身体がデカすぎるだろ。
大魔神族は石像魔人族と違って、ある程度の伸縮できることは知っていたが、まさかこんなに大きくなれる奴がいるとは……。さすがの俺も予想していなかった。
「馬脚を現したな、ガンケツ殿! いや、ガンケツ!!」
ストーナの父親は若い石像魔人を伴って、攻撃を行う。石像魔人も人類よりは大きな身体をしているが、今のガンケツからすれば子犬も同然だ。
「小賢しい!!」
ガンケツは地面を踏みつけると、その衝撃だけで、石像魔人を吹き飛ばした。
「やめろぉぉぉぉぉおおおお!!」
叫び声を上げたのは、パフィミアだった。虐げられている者を見ると、それが魔族だろうと、悪漢だろうと関係ないらしい。
いつも通り砲弾みたいに突撃していった。
早速足に組み付く。だが――――。
「う、動かない……!」
「パフィミア様!!」
いくらパフィミアが馬鹿力でも、さすがに城1つ分の重さもありそうな重量を持ち上げることは困難らしい。
「はっ! 何をしている、獣人風情が!!」
ガンケツは足をぶらりと振り、パフィミアを引き剥がす。向こうとしてはしがみついた子どもをふりほどくほどの力だろうが、パフィミアは為す術なく吹き飛ばされていった。
なんとか無事のようだが、さすがのパフィミアも手も足も出ないらしい。
大魔神族ぐらいなら、パフィミアでもなんとかなると思っていたが、大誤算だ。
どうする? 即死魔法を撃つか?
いや、駄目だろ。
さすがにあんな馬鹿でかいのを1発で倒したら怪しまれる。それに石像魔人の前で撃つのもまずい。死属性魔法ってわかって、パフィミアたちの前で魔族バレしてしまう可能性がある。
ここは三十六計逃げるにしかず。
ローガンの爺さんを連れて逃げるしかねぇ。
「きゃあああああああああ!!」
絹を裂くような悲鳴が聞こえる。
振り向くと、今まさにストーナがガンケツに踏みつぶされそうになっていた。
その側にはローガンだ。
手を握り、ストーナを庇うように覆い被さる。
「死ぬ時は一緒だ」
「ローガン……。ええ!」
大きな影が接近すると同時に、2人の顔も接近する。
緊急時にイチャコラする中、突如ガンケツの足が止まった。
俺は息を飲む。
それは側で見ていたストーナの親父も同様だ。
「あれは、ローガンの……」
ゴーレムだ。
ローガンのゴーレムが、ガンケツの足を支えていた。
ミリミリと音を立て、2人を庇う。
「が、ガンディー……。お主……」
『グオオオオオオオオオオオオ!!』
ガンディーは吠える。
あのパフィミアですら跳ね返せなかったガンケツの足を逸らした。
ローガンとストーナを助けたのだ。
「なっ!」
足を取られたようになったガンケツはそのまま盛大に横に耐える。
里の周りに広がる深緑の森に轟音を立てて転んだ。
「すげぇ……」
ゴーレムが、ガンケツを跳ね返しやがった。
だが、その代償は大きかったようだ。ガンディーの身体には無数のヒビが入っていた。
「ガンディー……」
ガンディーはローガンの方に振り返る。最後の力を振り絞るように。
そのゴーレムにはまともな顔はなかったが、使い手である主に対して笑っているように見えないわけじゃない。
やがて身体が弾けると、そのまま砂のようになってしまった。
「ローガン……。今のゴーレムは……?」
「わしの相棒じゃ……。かけがえのない」
ローガンは砂に手を入れる。
掬い上げたのは、綺麗な丸い宝石だった。おそらくそれがゴーレムを作る上で欠かせないと言われる核なのだろう。
「無茶しおって……。……そうか。わしはずっと1人で山の峰を歩いていると思っていた。だが、違った。ガンディー、お前だけはわしの後をついてきてくれていたのじゃな」
「あなたにとって、そのゴーレムはかけがえない相手だったのね」
「情けない。……ずっと側にいたのに、わしは気付けなんだ」
ローガンは丸い宝石を掲げる。
「ローガン?」
「もう1度、ゴーレムを作る。もはやガンディーのような魂を持つゴーレムは作れぬかもしれぬ。しかし、それでもわしはガンディーのために一矢を報いたい。手伝ってくれぬか、ストーナ」
「……ええ。もちろん」
「これがお主と最初で――――」
「最後の共同作業ですね」
ストーナが、ローガンの持った宝石に手を置く。
俺も、パフィミアやシャロンも、2人が交わす会話、今から行うことの意味がわからず、ただ黙って見ていることしかできなかった。
やがて宝石が強烈に光り出す。
先ほどガンディーを構成していたと思われる砂が浮き上がり、2人を包んだ。
「ローガンのお爺ちゃん!」
「ローガン様!!」
パフィミアとシャロンが叫ぶ中、砂や周囲の地面、岩をも飲み込み始める。
そこでようやく倒れたガンケツの顔が上がった。
目の前にできた巨大な砂の柱に息を飲む。
やがて手が、足が、そして顔が現れると、ガンケツの前に立ちはだかった。
俺たちの前に現れたのは、ガンケツに引けを取らない巨大ゴーレムだった。
「す、すごい! かっけぇえええ!」
「なんと巨大な……」
弟子たちは現れたゴーレムを見て、興奮している。
俺もまた言葉を失っていた。
「なっ――――」
なんじゃこりゃあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!
大きくなったガンケツにも驚いたが、ここまで巨大なゴーレムを見るのも初めてだ。
世界一の石像彫刻家の触れ込みはどうした? 世界一大きなゴーレムを作れるゴーレム使いの間違いじゃないのか?
こんな巨大戦力、戦場で見ただけで寒気を覚える。
心底ローガンの爺さんが芸術家で良かったぜ。
推測だが、その宝石にストーナの魔力も合わさったことによるものだろう。でも、こんなに大きくなるとはな。魔法をそれなりに囓っている俺でも説明がつかん。
……これが愛の力っていう奴なのかよ。
「な、なんだ? このゴーレムは……」
元幹部の俺が驚くのだ。
下っ端のガンケツにとっても寝耳に水という奴だろう。
『ガンケツ……。よくも私たち一族を騙してくれたわね』
「その声! ストーナか!! ふん! 舐めやがって。騙したの、そっちも一緒だろうが、女狐め!!」
『正直に言うわ。あなたとの結婚は心底嫌だった』
「なにっ!?」
『でも、何より許せないのは、お父様や私の仲間を裏切ったことを。……ここで決着をつけさせてもらうわ』
「決着? 抜かせ!! 女が何を粋がってるんだよ!!」
先制したのは、ガンケツだ。
地面を削り、真っ直ぐ向かってくる。
弓弦を振り絞るように右拳を引くと、真っ直ぐゴーレムに向かって繰り出した。
右ストレートをかいくぐると、合わせるようにガンケツの右頬に自分の右拳を合わせる。
ドシンッ!!
腹の底まで響く重低音。
同時にガンケツの頬が弾ける。
衝撃は凄まじく、森の外まで吹き飛ばされたガンケツは、そのまま大の字になって失神した。
やがて空気が抜けたように萎み、ガンケツは元の大きさに戻る。
一瞬の邂逅であったが、十分な成果だった。
勝ち名乗りを受けるように、ストーナの声がするゴーレムは腕を掲げる。
すると一斉に森に退避していた石像魔人族が飛び出す。
逆に式に参加していた大魔神族は蜘蛛の子を散らすに逃げていった。
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