年末年始ご挨拶スペシャル
年末年始ご挨拶スペシャル
本日コミカライズ更新日です。ニコニコ漫画で是非読んでください(マガポケでもよろしく!)
そして2月8日には、コミックス第7巻が発売です。
早めにご予約いただけると、紙部数が増えて重版しやすくなるので、
担当が喜びます。是非!
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「お餅というものが食べたいわ」
魔王グリザリアが唐突に言いだしたのは、まだ俺こと屍蠍のカプソディアが追放される200日前の年の瀬だった。
魔族といえど、年の瀬は忙しい。
特に俺たち四天王は、だ。
玉座から離れられない魔王様に代わって、各部族の代表者に挨拶。
俺がこの後追放されるきっかけとなった『魔王TVショー』年末特別番組と、年始の特別番組の出演、そしてはしご。
さらに各種族による忘年会の顔出し。
年末調整に、実家に帰る魔族には多めの給金を渡したり……。
そこに通常の業務(練兵、補給備蓄管理、喧嘩の仲裁、死者蘇生)が加わり、普段さほど激務ではないブレイゼルやルヴィアナ、ヴォガニスも年の瀬において、げっそりしている。
かくいう俺もやつれにやつれ、干物みたいになっていた。
部下が死にそうになっている時に限って、上司から無茶振りである。
そもそもお餅ってなんだ?
また人間の捕虜が変なことを魔王様に吹き込んだろう。
ちょっとそいつ出てこい。俺が生き返らせて、たっぷりお餅とやらを作らせた後で、ルヴィアナの飯を食わせてやる。四天王No.1の美女とか言われている女子が作った飯だ。さぞ幸せそうに死ねるだろう。まあ、飯を食わせて死ぬという時点で色々おかしいのだが……。
「何その顔? あたしの顔に何かついてる? それとも……」
魔王の命令が聞けないとでもいうのかしら……。
完全にパワハラである。
なんでもこういう時、人間の世界では(ごく稀に)部下が上司を訴えて、ざまぁ展開なるものが生まれるそうだが、残念ながら魔族の世界にそんな面白展開はない。上司というか、魔王様のいうことは絶対。魔王様の命令に逆らうことは魔族軍に対する裏切りであり、そして死を意味する。
四天王といわれたところで、所詮は宮仕えだ。
上司のいうことには「はい。喜んで」と応じなければならない。
すごすごと謁見の間を後にし、最初に怒りを爆発させたのはブレイゼルである。
「この年の瀬に何を考えているんだ、魔王様」
「まったくだ! 亀の手だって借りたい時だってのによ」
ブレイゼルの言葉に、ヴォガニスものっかる。
それをジト目で睨んだのは、ルヴィアナだった。
「ブレイゼル、魔王様に聞こえるわよ。あとヴォガニス。あなたは何もやってないでしょ。ただ部族の忘年会に出て、お酒を飲んでるだけじゃない」
「固いことをいうなよ、ルヴィアナ。これも業務なんだからよ」
「まったく……。それより――――」
ブレイゼル、ルヴィアナ、ヴォガニスは後ろを歩く俺の方に振り返る。
「ちょっと……。カプソディア、大丈夫」
「久しぶりに顔を見たかと思えば……。今にも死にそうな顔ではないか」
「わははは……。ブレイゼル、それは昔からだぜ」
三者三様の言葉が浴びせられる。
しかし、たとえ憎まれ口であろうと、俺は反論しない。
というか、そんな体力すらなかった。
年の瀬はもはや俺にとって鬼門中の鬼門だ。
普段から俺の業務は激務だ。そこに年の瀬特有の業務が加わり、1日が48時間になったところで足りないほど、膨大なタスクが積み上がっていた。
業務を振ればいいなんて気安くいうかもしれないが、そもそも魔族というヤツらは馬鹿ばっかりだ。字も書けない、読解力もないというヤツらほとんどで、書類業務をまともにできる魔族を捜す方が難しい。
おかげで、家に1ヶ月も帰っていなかった。
不幸中の幸いは、この年の瀬になると人類軍の侵攻がないことと、たとえ忙しさに殺されようとも俺がすでに死んでいることだろう。
俺に忙殺なんて言葉は通じないのだ。
真っ黒なローブが真っ白になっている俺だが、魔王様の命令は絶対だ。
なんとかして実行しなければ……。
俺は早速捕虜たちに「お餅」なるものについて聞き、材料を揃えるためにこっそり人類圏に侵入した。思えば四天王揃っての任務なんていつぶりだろうか。
「お餅の材料は餅米。それを蒸かして作るものらしいな」
「なんかモチモチして、とっても伸びるみたいね」
「ふん。ならばスライムでも差し出せばいいんじゃないか?」
「ブレイゼル、お前――いつか魔王様に殺されるぞ」
「おい。あそこに人里があるぜ」
ルヴィアナの風に乗って、人類圏にやってきた俺たちは小さな人里を見つけた。
周りには田んぼが広がっており、所々雪をかぶっている。
それを見たブレイゼルは炎を掲げた。
「よし。早速燃やすか」
「待て待て。お前はなんでそう短絡的なんだよ!!」
「短絡的とはなんだ! 意味がわからんぞ!」
「今、ここで人里に危害を加えたら、人類軍を刺激することになるだろう。このクソ忙しい時に戦争でもしたら、お前でも死ぬぞ」
「ぐっ!」
いくら好戦的なブレイゼルでも、これ以上の業務が増えるのはノーサンキューらしい。
「いいか。なら、どうするのよ、カプソディア」
「こうやるんだよ」
俺は単独で、人類の一軒家に入る。
そこには老婆がいて、囲炉裏の前で茶をしばいていた。
俺は揉み手をしながら、老婆に近づいていく。
「お婆ちゃ~ん。肩もみするね」
「おやおや。ありがとね」
「薪割りやろうか。大変でしょ」
「はいはい。助かるわぁ」
「年を取ると、雪かきも大変だよねぇ」
「あらまあ。そんなことまで」
「お婆ちゃん、お湯加減はどう?」
「いいお湯じゃ~。ここは極楽かのぉ」
「お婆ちゃん、餅米ほしい」
「ほれ。持って行きなされ」
俺は家を後にし、上空から様子を窺っていた四天王と合流する。
1俵分の餅米を見せた。
「どうだ。こんなもんよ」
「すごっ!」
「つーか、気持ち悪いわ」
「あの婆さん、警戒心なさすぎだろ」
いいんだよ、細かいことは。
誠意が通じれば、大抵の無理は通るもんなんだ。
まあ、そんなこんなで餅米を手に入れ、早速魔王城に持ち帰る。
炊事場に向かって、餅米を蒸かすことにした。
「さっ! まずは餅米を洗うところね」
「待て待て待て待て。さも当たり前のように料理をやろうとするな、ルヴィアナ」
「何よ。悪い?」
「この『ククク』でお前が料理をして、幸せになった回は1度もないんだよ。大人しくしてろ」
「別に米を蒸すだけじゃない。むぅー」
頬を膨らませる。
他の魔族からすれば、可愛く駄々をこねているように見えるだろう。
事実、ブレイゼルは鼻血を垂らしている。
しかし、この可愛いといわれる四天王がとんでもない異物を生み出すのだ。
俺は人間から聞いたレシピ通りに作る。
数十分後……。
鍋の蓋を開くと、粒だった米が現れた。
「なんだ。全然スライムみたいではないではないか。さてはミスったな、カプソディア」
「落ち着け、ブレイゼル。ここから杵と臼を使って、搗いていくんだ」
俺はあらかじめ魔族たちに用意させておいた杵と臼を持ち出す。
軽く水を付けて、臼の中で軽く手で捏ねた後、搗く作業に入った。
「ここからは1人二組になって、餅を搗くんだ。1人は搗く役、1人は餅をひっくり返す役な。誰からやりたい」
「ふふん。1番といえば、このブレイゼルにおいて他にいないだろう」
いつそんなことを決めたんだよ。
「じゃあ、私がひっくり返す役をやろうかしら」
「え? ルヴィアナが我の搗いた餅をひっくり返す」
我が搗き、ルヴィアナがひっくり返す。
↓
ルヴィアナと一緒の作業
↓
初めての共同作業
↓
つまり結婚!
ぷしゅー!!
「ああ! 何故かブレイゼルが鼻血を噴きながら倒れたぞ!」
「おい! ルヴィアナ、お前何をしたんだよ!!」
「私はまだ何もやってないわよ!!」
この2人はダメだ。
特にルヴィアナが触ると、何故か不幸が降りてくるらしい。
ここは俺が人肌脱ぐしかないか。
というわけで、俺とヴォガニスで組むことにした。
「ふふん。力仕事ならやっぱりオレ様だろ」
「いいか。ヴォガニス、俺が餅をひっくり返したら搗くんだぞ」
「わーてるよ」
ヴォガニスは健康優良児みたいな真っ白な歯を見せる。
こいつこう見えて、三食の後、必ず歯を磨くのだ。
行動も姿も田舎のヤンキーみたいなのに、妙にそういうところは育ちがいい。
もう付き合って、200年近くになるが、未だによくわからんヤツである。
「じゃあ、行くぞ」
ぺったん!
くるり……。
ぺったん!
くるり……。
ぺったん!
くるり……。ぺったん……。
くるり……! ぺったん!!
くるり!! ぺたん!
くるっ! ぺたん!! くる!! ぺたん!! くる!ぺたん!!くるぺたん!!くるぺたくるぺたくぺたくぺくぺくぺぺぺぺぺ!!!
「はええええええええんだよ!! ヴォガニス!!」
「てめぇ、遅いんだよ、カプソディア!!」
最後、ずっとヴォガニスが搗いてるだけじゃないか。
つーか我ながらよく手を挟まなかったもんだぜ。
こんな餅つきで手がぺしゃんこになったっていっても、労災はおろかそのまま業務続行させられるだけだから。もう嫌だぞ、足で字を書くのは!!(すでに何度か経験済み)。
ダメだ。ヴォガニスでは手がいくつあっても足りない。
というわけで、最後に俺はルヴィアナと組むことになった。
俺が搗き、ルヴィアナがひっくり返す。
さすがはルヴィアナだ。ブレイゼルのように奇行に走るわけでも、ヴォガニスのように乱暴でもない。
しばし「ぺたん!」「くる」という和やかな音が、魔王城に響き渡る。
「やっぱり1番息が合うのは、ルヴィアナだな」
「な、何よ。いきなり」
「なんだよ、お前。照れてるのか?」
「うっさい! あんたこそ自分で作った執務室に顔を出さないで何をやってんのよ」
「うっ! そ、それはすまねぇ。色々と忙しくてさ」
「それは知ってるけど……。た、たまに顔を出しなさいよ」
「ルヴィアナ……」
「な、何よ。改まって」
「こりゃなんだ?」
「へっ?」
俺は普通に搗いていただけである。
ところが臼の中の餅は真っ黒に変色し、表面には無数の目が浮かんで、周りの腐肉がドロドロと爛れていた。どこからか「ヴォヴォヴォヴォ……」という謎の声を上げ、甘く苦いなんとも言えない臭いを放っている。
へ~。これがお餅か。
人間ってこんな危ないもんを食べてるから、魔族に楯突くのだろうか。
――――って!!
「ちげぇぇええええええ!! こら! ルヴィアナ、何をやった!!」
「な、何もしてないわよ」
「何もしてないわけないだろ! お前以外に、こんな異界の覇王みたいなものをこさえるヤツがどこにいる!!」
「失礼ね! ま、まあ、ちょっと餅米だけじゃなんか足りないかなって思ったから、チョコレートとか、みりんとか、生かんずりと混ぜてみたけど」
「いつ?」
「そりゃひっくり返す瞬間よ」
なんでそんな無駄に高度なことをしてるんだよ。
そういうのいらないって、いつも言ってるだろ。
『ヴォヴォヴォヴォヴォヴォヴォ!!!!』
さらに異界の覇王は伸びていく。
まさに話に聞いていた餅のようにだ。
ついに魔王城の壁を破る。当然外では大騒ぎになった。
はあ……。結局、このオチかよ。
なんのかんのとあって、餅ができた。
俺たちは早速、魔王様に献上する。
初めてお餅を食した魔王様は、頬を大きく膨らませ、満足そうな笑みを浮かべた。
「このモチモチした食感がたまらないわね。癖になりそう。よくやったわ、あなたたち」
「「「「あ、ありがとうございます……」」」」
「特に味が素晴らしいわ。血の味というのかしら。実にはこの魔王が食すにふさわしい。話を聞く限り、こういう味つけはしないと聞いていたけど、誰のアイディアかしら」
俺たちの視線がルヴィアナに向かって行く。
「ルヴィアナね。やるじゃない。来年も頼むわよ」
「え? は、はい! お任せください」
ルヴィアナは目を輝かせたが、来年はなかった。
その年、魔王様は10キロも太ったため、以後お餅はクランベルによって禁止されたのである。
――チャンチャン――
~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~
本年も『「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になる」』をご愛顧いただきありがとうございます。
来年も師匠と弟子のコンビをよろしくお願いします!
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