外伝 Ⅳ とあるゴーレム使いの恋噺⑦
『「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になる』いよいよ明日発売です。
書店にお立ち寄りの際には、是非よろしくお願いします。
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◆◇◆◇◆ 弟子たち ◆◇◆◇◆
『俺が石像魔人たちを説得してやる』
そう言って、カプアが石像魔人たちが住む里に向かっていき、すでに2時間が過ぎていた。
パフィミア、シャロン、そして当事者であるローガンは石切場のところの岩陰に潜み、遠くから石像魔人の里の様子を窺っている。
交渉が長引いているのか、里に何の動きもない。それまでカプアに対して、絶対の信頼を置いていパフィミアとシャロンの表情も、次第に曇っていった。
「大丈夫かな~、ししょー」
「今、聖者様を信じるしか……」
「でも、すごいね、ししょー」
「そうですね。まさか石像魔人とご縁があるとは知りませんでした」
「『俺が本気を出せば、石像魔人なんて泣いてストーナをローガン爺さんに差し出すぜ』とか言ってたもんね。見たかったなあ、本気のししょー」
「いつもは過信せず謙虚な方なのに、今回は自信に満ちておいででした」
2人の弟子たちは絶賛する。
それを聞きながら、ローガンは首を傾げた。
「素朴な疑問じゃが……。あやつ、魔族に縁があるとか言っておったが、そもそも何者なのじゃ?」
「ししょーはね。すごく強いんだよ。魔族の軍団をデコピン1発でやっつけちゃうんだ」
「詳しい素性はわたくしたちも知らないのです。ただ優しく、品行方正な方ですよ。それに常に冷静沈着で」
「きっとどこかの国の騎士様だったんだよ」
「ええ。間違いありませんわ」
ここでも自称弟子たちは絶対の信頼を見せる。
ローガンは若干困惑気味にまた首を傾げた。
「お主ら、それでよく弟子になったな。まあ、お主らがそれでいいなら良いが……。それほどの男ということか」
ローガンは顔を上げ、石像魔人がいる里の方を見て、目を細める。
その後ろで、石切場まで連れてきたガンディーが静かに佇んでいた。
◆◇◆◇◆ 一方、奴は…… ◆◇◆◇◆
「縄を解け! 開けろ! 出せ!!」
石像魔人の里に、説得に赴いた俺は捕まっていた。
さすがというか、当然というか。
堅牢な石の牢獄に入れられ、亜屍族自慢の怪力も通じない。なかなか硬い鉱石で作られているらしく、殴っても傷1つ付かなかった。それどころか縄で両手を縛られ、満足に身体を動かすこともできない状態だ。
ストーナの結婚式は明朝。
すでに夜を迎えている。
陽が昇れば、ストーナの結婚式が始まってしまう。
まずい……。まさかこんなことになるとは、予想外だった。
とにかく、せめてこの場を脱出せなば。
「騒がしいですな」
「その声……。ストーナの親父か」
石の格子を挟み、ストーナの親父が俺の牢獄の前に立つ。後ろには如何にも屈強な石像魔人が控えている。どうやら、1度会った誼でひっそりと俺を逃がしてくれるというイベントでもなさそうだ。
「おい。わかってんのか? 俺は魔族の幹部だぞ。四天王の屍蠍のカプソディア! 聞いたことぐらいあんだろ!!」
「それは先ほど聞きました。しかし、屍蠍のカプソディアなんて名前は聞いたことがありません。他の者に聞いて周りましたが、
「なんで3人まで出てきて、あと1人が出てこないんだよ!! 四天王だぞ! 普通、4人いるって思うだろう」
くそ! 結局田舎の魔族だ。
だから、田舎は嫌いなんだよ。
四天王なんだから4人だろう。
なんで3人目まで来て、4人目のことを調べようとしないんだよ。
「しかし、私にはあなたが魔族の幹部には到底思えない」
「な、なんだと!!」
「目の下に浮かぶ深い隈、全体的に幸が薄そう。存在感も希薄。何より火成岩よりもがさがさな青白い肌!! とてもではありませんが、幹部に見えません」
おいおい。罵倒のコンボを積み重ねてくるんじゃねぇ。
火成岩よりガサガサだと!
仕方ないだろ! こっちはブレイゼルとかルヴィアナとは違って、お肌のケアなんてろくにできず、仕事してきたんだ。
これは俺が頑張った証なの!
それを否定するとか……、やべー泣けてきた。
ちょっとタイム。
今、なんか最近いいことがあったことを思い出すから。
育ててる野草が蕾を付けたことを思い出すから待って!
「仮にあなたが魔族の幹部の方だとして、なんでそんな方が人類圏にいらっしゃるのですか? というか、あなた……、この前人間といましたよね。それも勇者とか、聖女とか言ってたような」
「あ、あ、ああああああれは気にするな。見間違い……、ちがうちがう。俺のま、魔法……操作魔法で使役しているんだよ」
チッ! 田舎魔族の癖に的確にこちらの弱点を突いてくるじゃないか。罵倒まで新種の言葉まで混ぜてきやがって……。てめぇ、今は真っ当そうな石像魔人に見えて、昔はいじめっ子だったろう。俺は昔、いじめられっ子だったからわかるんだよ。
段々昔の話を思い出してきたら、腹が立ってきた。
もういっそ里のヤツら全員やっちまうか?
いやいや、ダメダメだ。
中立魔族は殺せない。
そんなことをすれば、他の中立魔族の不信感を招くことになる。
他の魔族が人類側に寝返る可能性だってあるだろう。
虎の子の炎獣軍団が使い物にならなくなった今、人類側の戦力が増強されるのは、どう見ても悪手だ。
そもそも自分で宣言した以上、ローガンの爺さんとストーナの愛のキューピットになってやりてぇ。死属性魔法使いが何を言ってるんだと思うが、自称弟子たちの前で宣言したことは、俺の本心だ。
とにく脱出しなければ……。
「明朝からストーナの結婚式が始まる。そうすれば、あなた方もあの老人も諦めがつくでしょう。それまで大人しくしていてください」
「あっ! ちょっと待て! せめてここから出――――」
ストーナの親父は俺に釘を差すと、石牢を後にした。
言いたいことは山ほどあるが、こんな石牢で悪態を吐いていても仕方がない。なんとかしねぇと、ストーナの結婚式が始まっちまう。
まあ、最悪結婚しても略奪してしまえばいいけどな。望まない結婚な上、ローガンとストーナは好き合っている。たとえ、そうなったとしても、あの2人なら駆け落ちするぐらいの覚悟はあるだろう。
『はあ……。明日はやっと結婚式か。かったりぃなあ』
外から声が聞こえる。
石牢は地下にあり、空気を通す穴が天井付近にある。どうやら俺がいるとも知らずに、誰かが空気穴の側で談笑しているようだ。
『いよいよ、この田舎臭い里ともおさらばか。人類圏だけあって、ここは人間臭くていけねぇな。暴れ出したくなるぜ』
『抑えてくださいよ、ガンケツ様。もう少しなんですから』
ガンケツ? どっかで聞いた名前だな。えっと、確か……。
『お前が
そうだ。ストーナの結婚相手が確かそんな名前だった。
そいつ、近くで喋ってるのか?
俺は息を潜め、しばしガンケツとその友人らしい談笑に、耳をそばだてた。
『そういえば、あの子はどうするんです?』
『あの子? ああ。あの田舎臭い石像魔人の娘か。結婚式を挙げたら、すぐにうちの実家に連れていくつもりだ』
『大魔神族のテリトリーですか?』
ん? 大魔神族?
今、大魔神族って言った?
ストーナの相手って、大魔神族だったのか。
石像魔人の上位互換みたいな種族だ。
比較的大人しい石像魔人とは違って、気性が荒く残虐。
石像魔人と同じく、人類圏に里を持っていたが、いち早く魔族側に参戦した武闘派だ。
『実家に帰ったら、やりまくりですか? かわいそうに……。ガンケツさん、激しいから』
『馬鹿野郎。あんな芋臭い女を抱くよりも、街灯に立ってるサキュバスとやる方がよっぽど楽しめるつーの。……人質だよ、人質』
人質???
『あの女を人質にして、石像魔人族を魔族に引き込む。そんで近くにある人間の街を襲わせるのさ』
『え? 確か、あの街には炎獣軍団を倒したっていう勇者と聖女がいるって話ですよ』
『戦闘の結果なんてどうでもいい。要は俺様たちがどれだけ頭を使って、魔王軍に貢献できたかアピールできりゃいい』
『な、なるほど』
『今の魔王軍は疲弊していて、戦争どころじゃねぇ。そこで頭を使って、無駄に戦力を使わず、人間の街に打撃を与えたとなれば、魔族の幹部だって一目置くだろう』
『そううまくいきますかね?』
『いくさ。大事な娘の命がかかってるんだ。死にものぐるいで戦って……』
死ぬだろうさ……。
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