外伝 Ⅳ とあるゴーレム使いの恋噺⑥
発売まであと、2日です。
是非、単行本6巻をお買い上げください!
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「そういうことであったか」
ストーナと石像魔人たちを見送った後、その場に留まるわけにもいかず、俺たちは1度ノイヴィルに戻ることにした。
今、依頼を出したカーラ、マケンジーに事情を話し終えたところである。
さすがにローガンの恋の相手が、魔族だと知った時は驚きを隠せなかったが、顛末を聞いてホッとした様子だった。
そこでようやく知ったのだが、ローガンはマケンジーのはとこに当たるそうだ。
なんか似てると思ったんだよな、この2人。
「お前が無事戻ってきてくれて良かった。なに、まだまだ世の中には色んな
「今回はマケンジー様の意見に同意します。恋愛は自由とは思いますが、さすがに魔族の方とお付き合いするのは危険ではないかと」
「カーラさんの言う通りかな。ストーナさんはともかく……」
「他のご家族や仲間の方の了承をとるのは難しいかもしれません」
ノイヴィルにあるギルドの一室には、敗戦ムードのような雰囲気が立ちこめる。
皆が下を向き、それぞれの意見を口にした。
まあ、真っ当な決断ではあるな。
相手は魔族だ。中立を宣言しているとはいえ、戦争をしている種族である。
水と油。相容れないことは目に見えている。
確かにここらで引いておくのが無難かもしれないな。
静まり返る部屋の中で、それまでずっと沈黙を貫いていたローガンは口を開いた。
「石像彫刻家として、初めてわしが作った石像が売れたのは、わしが32歳の時だった。それから石像彫刻一筋、雨の日も、風の日も、横でドンパチしていても、わしは石を彫り続けた」
「ローガン……、主……」
「マケンジー、お主が女子にうつつを抜かしている時も、酒場でビールを飲んでいる時も、孫を抱き上げている時もずっとだ。……おかげで名の知れた石像彫刻家にはなれはしたが、果たしてそれが良かったのかどうかわしにはわからなくなった」
ローガンはまるで白昼夢でも見るかのように、顎を上げて天井を見上げる。
「山は遠くから見れば美しい。しかし、あの山の峰はどうなっている。狭くて険しい荒涼とした山道しかない。わしが目指した道は、そんな場所なのかと思った時、石を削る手が初めて止まった」
お、おお……。今のってローガン語録って奴か。
「そんな時、目撃したのが彼女じゃった。何十年のこだわったとて、彫れぬであろう細く、美しいプロポーション、太陽に光るエメラルドの髪、滑らかでいて儚くもある大理石の白い肌。……あの姿をひと目見た時、確信したのだ。『そうだ。わしが見たかったのはこれだ』と……」
爺さんは拳を握り締め、さらに演説を打つ。
「ストーナは職人一筋でやってきた、わしの心のオアシスなのだ」
「つまり、お主は諦めておらんということか」
マケンジーの質問に、ローガンは頷く。
その視線は1度ノイヴィルから出ていった時よりも、力強く鍛えられた感がある。
しかし、部屋の中は空気を変えられるほどではない。
「お主の気持ちはわかる。そこまで好いた女なら尚更じゃ。しかしのぅ」
「はい。相手は魔族です。さすがに今回は分が悪いかと」
「うん。それにストーナさんにもストーナさんの事情があるんだし」
「そうですね。少し難しいかもしれません」
やはり意見は覆らない。
しかし、ローガンは諦め切れないらしい。立ち上がって、1人で行こうとする。
それを止めたのは俺だった。
「お主まで、わしの恋路を邪魔するのか? そもそもお主はわしの悩みを解決するために、わしの前に現れたのだろう」
「ああ。その通りだぜ、ローガンの爺さん」
「なら――――」
「だから、俺はあんたに着く」
俺は出ていこうとするローガンを庇うように、みんなの前に出た。
「ちょっ! ししょー?」
「せ、聖者様??」
「依頼のことなら違約金を」
「お主、何を考えておる。わしが知る限り、こういう面倒なことには突っ込みたがらない性格であろう。ローガンに取り入って何を企んでおる」
「取り入る? よくわからねぇなあ。だが、そうだな。ローガンを行かせる理由か……。それはな」
最初はこの世界的有名な芸術家の遺産を引き継いでいい暮らしでもしようと思っていたさ。それで勇者と聖女から離れられるとな。
でも、もうそんなことは関係ねぇなんせ俺はな。
「感動しちまったんだよ……」
「ししょー?」
「聖者様がお涙を?」
「カプア博士様?」
「むぅ??」
ふえぇぇえぇえぇえぇえぇんん!!
くそ! 涙が止まらねぇ。
何故だ。いや、理由はわかってるんだ。ローガンの爺さんの演説を聴いたからだ。
わかるんだよ、俺には。
痛いほどな。
俺もさ。軍に入って、一心不乱に働いてきた。魔王様のためと思って、泥水どころか毒だって飲むことあったし、残業続きで身体を壊して、そのまま強制的に登庁させられて、3徹したこともある。
自分でホントなんでこんな身をボロボロにしながら、働いているのだろうと思ったこともあったけど、そんな中あいつがいたからこそ頑張れたんだ。
ケルベロスだ。
あいつのモフモフに癒やされている時だけ、辛いことを忘れられた。
あいつは俺のオアシスなんだ。
なんか自分で言ってて、ローガンが言ってたこととちょっと違うかもしれないけど、魔族も人類も仕事だけでは生きていけないってことだ。
俺はオアシスを手放さなければならなかった。
だけど、ローガンの爺さんには諦めてほしくない。
故に、俺はここに立っているんだ。
「冷静に考えろ、カプアよ。そもそも今石像魔人のところに行ってもどうにもならん。命の危険だってあるのだぞ」
「俺が説得してやる!!」
「ししょーが?」
「聖者様、説得を?」
「俺が説得してみせる」
この元魔王軍幹部“屍蠍”のカプソディアに任せろ。
相手は田舎魔族。
格の違い見せてやる!
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