外伝 Ⅳ とあるゴーレム使いの恋噺⑤

『「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になる』単行本6巻 8月8日発売です。

是非ご予約お願いします。


~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~



「何をしている、ストーナ!」


 ローガンとストーナ。

 2人の奇跡の蜜月は長く続かなかった。


 突如、森の方から人影が現れる。

 人間かと思ったら違う。皆、ストーナと同じ石像魔人だ。


 それも1人じゃねぇ。

 30体近くの石像魔人たちだ。その先頭に立った石像魔人を見て、ストーナの顔色が変わる。


「お、お父さま」


「お父様? ストーナのお父上か」


 ローガンも驚く。

 まさか告白直後に家族が登場とは。

 用意がいいというか、展開が早すぎだろ。


 そのお父様はローガンとストーナが繋いだ手を見て、石の眉を顰める。


「その人間の男はなんだ?」


「ろ、ローガンは……その……」


「わかっているのか? 我らは石像魔人――魔族なのだぞ!!」


 お父様のカミングアウト宣言を聞いて、1番驚いていたのはパフィミアとシャロンだった。


「ま、魔族!?」


「まさか魔族がこんなところに!!」


 今、気づいたのかよ、この自称弟子たちは。

 そもそも石像魔人が魔族だって知らなかったのか?


 とはいえ、俺も人のことは言えない。


 今思い出したぜ。

 よく考えたら、石像魔人の種族は中立魔族に指定されていたはずだ。


 中立魔族ってのは、元々魔族圏から遠い場所に住んでいたり、人類圏の中にコミュニティがあったりして、戦争に参戦しないことを元々明言している種族だ。

 人類圏の中で戦うことを宣言しても、蛸殴りに合うだけだからな。

 そういう魔族は、人間や魔族に対して不戦条約を結んで、ひっそり住んでいるのである。


 まさかその石像魔族のコミュニティが、こんな近くにあるとは思わなかった。


 今、いる数だけでも30体。

 これが男手というだけなら、この倍ぐらいは石像魔人がいるはず。規模としては小さいが、腐っても魔族。怒らせれば、あの炎獣軍団と戦うぐらいの被害が出かねない。


 ここは穏便に済まさないと、逆上してノイヴィルが滅ぼされかねないぞ。


「お父さま、待って! この人たちは関係ないの」


「では、その手はなんだ? 何故、人間の男と手を繋いでいる」


「こ、これは……。聞いて下さい、お父様。私はこの方と結――――」


 突如ストーナはお父様に叩かれる。

 それはもうパシッ! なんて人間が平手打ちする音からは逸脱していた。地面に穴でも開きそうな音を立てている。


「愚かな娘よ。今、どれだけ大事な時期だと思っておるのだ!」


「それは……」


 魔族が現れたってのに、ホームドラマみたいな展開が始まった。

 修羅場めいた空気に思わず固唾を呑んでしまう。

 それは見守るパフィミアたちも、そして当事者であるローガンの爺さんも一緒だ。


「お前は、明日! 結婚するのだぞ!!」



「「「「えええええええええ !!」」」」



 思わず自称弟子やローガンと一緒に叫んじまった。


 おいおい。なかなかドロドロしてきたじゃねぇか。甘酸っぱい純情恋愛劇から一変、略奪恋愛ものに変わるとは俺も聞いてないぞ。

 俺は主人公とヒロインがもっといちゃつくシーンが見たかったのに、数行で終わるって、どういうことだってばよ!


 これはさすがのローガンもショックを隠せない。

 野外の石像彫刻で焼けた茶色の肌が、心なしか青く見える。


 対するストーナは否定も肯定もしない。衝撃の発言をしたお父様の方を向いて反論する。


「私は……、私が望んだわけではありません」


 ストーナの発言に、お父様の鉄拳制裁が再びやってくるのかと思ったが、違った。

 振り上げそうになった手を自ら収め、愛娘に語りかける。


「お前がガンケツ殿ヽヽヽヽとの結婚に納得してないのは知っている。だが、今回の結婚がどれだけ大事なものか知らないお前ではないだろう」


「けれど、私は……」


「ストーナ!!」


「待たれよ、お父上殿」


 再び父親の鉄拳が飛んでくるのかと思ったが、その前に立ちはだかったのはローガンだった。


 おいおい。さすが俺が惚れ込んだ爺さんだけあるぜ。

 女性の趣味はともかくとしても、この状況で親子の間に割って入るとはな。


 それだけ本気ってことだ。


「あなたが手塩に育てた娘を1度ならず、2度までも……。やめなされ、お父上殿。一番傷付くのは、お父上殿ではないか」


「人間風情が何を知ったような口を……」


「あなた方種族のことも、ストーナが明日結婚することもわしは知らなかった。……でも、これだけは言える。ストーナは人から2度打たれていいような娘ではない。それが父親というなら尚更だ」


 いや、会ったばかりだろ。

 なんでそこまでわかるんだよ、爺さん。

 もしかしてそれも愛の力か、それ?


「どけ、人間。我らは魔族だが、人間に危害は加えないと約束している。だが、そっちが我らの邪魔をするというなら、容赦せんぞ」


「ほう。どう容赦せんのだ。そちらがやるというなら、わしも久方ぶりに昔の血が騒ぐというものじゃ」


 ローガン爺さんの目は戦う男のそれになっていた。


 そこにシャロンとパフィミアも加わる。


「お爺ちゃん、ボクも助太刀するよ。魔族ってとこは置いておいて、ストーナさんは困ってる!」


「わたくしはストーナさんとローガンさんを応援します」


 パフィミアとシャロンも、ローガン側に付く。

 2人の子どものコンビに、お父様は眉を顰めた。


「なんだ、貴様ら」


「ボクは勇者パフィミア」


「わたくしは聖女シャロンですわ」


「なっ! 勇者と聖女が何故こんなところに!!」


 2人の名乗りを聞いて、お父様だけではなく、一緒についてきた石像魔人たちも驚いていた。


 そりゃまあ、驚くよな。

 のんびり暮らしていた中立魔族のところに、人類の急先鋒ともいえる勇者と魔族が現れたんだから。


「くそ! 我ら石像魔人を壊しに来たのか! かくなる上は我らも……」



「やめて!!」



 急速に殺気が立ちこめる泉の側で、ストーナの悲鳴じみた声が響き渡った。


「お父様も、そこの人間も、……そしてローガンもやめてください。争いは見たくありません。どっちも私にとって大事な人なのに」


「す、ストーナ。すまない。わしは、お前さんの大事な家族を……」


「いえ。ありがとう、ローガン。あなたの、その優しい気持ちも好きです」


「ストーナ……」


「でも……」



 やっぱりここでお別れみたいです。



「ストーナ、お主……」


「私は魔族。そしてあなたは人間……。やっぱり相容れられない種族なんです」


「そ、そんなことは!!」


「そんなことはあります。私は人間を知らない。あなたが何を食べられるのかも知らない。肌もカチカチだし、人間のように柔らかくない。あなたを本気で抱きしめたら、背骨を折ってしまうかもしれない」


「それでも、わしはお主のことが……」


「はい。わかっています。だから、とても嬉しかった。付き合ってほしい、と言われた時、本当に嬉しかった。そうやって真っ直ぐに……」



 愛情を感じる言葉を聞いたのは初めてだから……。



 それだけ言って、ストーナは振り返った。

 その周りに石像魔人が取り囲み、殺気立った視線をこちらに向けてくる。


 結局、俺たちは何もできず、ただ石像魔人が森の中に消えていくのを見守っていることしかできなかった。

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