外伝 Ⅱ 入れ替わってるぅう!⑨
本日、無事発売日を迎えることができました。
退勤後、下校の後、書店にお立ち寄りの際には是非お買い上げいただければ幸いです。
よろしくお願いします。
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「え~。折角面白そうだったのに~」
結局、カプソディアとブレイゼルのキスをするという方法は却下され、エリーテは口を尖らせる。
ちょっと怒ったようにジト目で入れ替わった2人を睨んでいるのだが、本人は楽しんでいることは明白だった。
「ねえ。ルヴィアナ、あなたもそう思いませんか?」
「なんで私に振るのよ! い、いやよ。その……。き、キスなんて」
「おお! ルヴィアナ! 我の唇が他人に奪われるのが嫌なのだな。それがカプソディアならなおのことだ。ならば、今のうちに我の唇をお前に……」
「え? 今――――」
ルヴィアナはわかりやすく動揺する。
「おいおい。ブレイゼル。わかってんのか? 今のお前は俺の身体なんだぞ」
「しまったぁぁあああああ!! ダメだ! それだけは絶対にいかん! な、ならば、カプソディア、お前がキスをするのだ!!」
「え!? ええええええ !!」
悲鳴を上げたのは、ルヴィアナだけだった。
「なんでルヴィアナにキスしなきゃいけないんだよ。結局、俺がお前の身体を乗っ取ってんだぞ」
「はあああああ! そうだった!! どうしたらいいんだぁぁぁああ!!」
ブレイゼルは本気で頭を抱える。
カプソディアの身体のため、その姿はどこか自然な感じがしたが、言ってることはあまりにも馬鹿らしかった。
カプソディアが「ケケケ」とヴォガニスと笑っていると、冷たい視線が飛んでくる。
振り返ると、ルヴィアナがこっちを見ていた。
「な、なんだよ、ルヴィアナ」
「べ~~つ~~に~~」
何故か、とっても不満そうだった。
閑話休題――――。
「とにかく、他に方法はないのかよ!」
カプソディアはエリーテに対して、改めて訴える。
腐ってもダークエルフ。そのネットワークは広く、何よりエリーテは優秀だ。魔王城にある大書庫から探すよりは有益な情報があるだろう。
「そうですね。頭を殴って、ショックを与える――でしょうか?」
「頭? そんなことして魂の入れ替わりが――――ん?」
「「せーの!!」」
カプソディアが振り返ると、ブレイゼルとヴォガニスが拳を固めて、大きく振りかぶるところだった。
避ける間もなく、カプソディアの顔面に2人の拳が打ち付けられる。
ヒュッと空気を切り裂き、カプソディアは保健室の壁に叩きつけられた。
「ちょ、ちょっと2人とも!」
「ゲハハハ! 頭を殴れば戻るんだろ? そういうのは得意だぜ」
「相手がカプソディアならば、容赦なく殴れるしな」
「アホか! お前ら!!」
すぐ様、カプソディアは立ち上がる。
怒りを滲ませ、主犯2人を睨んだ。
「つーか、ブレイゼル! 俺は今はお前の身体の中にいるって何度言ったらわかるんだよ。俺が今殴られれば殴られるほど、お前の身体が傷つくんだぞ!」
「し、しまったぁぁぁああああああ!!!!」
ブレイゼルはカプソディアの身体で白目を剥くほど驚く。
本当に何も考えなしに自分の顔面に拳を放ったらしい。
「ちょっと待って。カプソディアもブレイゼルも元の身体のままみたいよ」
「片方を殴っても効果はないかと」
エリーテは冷静に分析する。
「そういうことは早く言え! 殴られ損じゃないかよ、俺!」
「そうだぞ、エリーテ! そういうことは早く言うのだ!!」
抗議するのだが、エリーテは意に介していない様子だ。
「あなた方が説明途中に殴ったのが悪いんですよ。人の話は最後まで聞いてください」
やれやれ、と首を振り、説明を続けた。
「人間のある魔導書にはこうあります。ある朝、パンを加えた処女の娘が街角で…………」
「その説明はいい! 方法だけを教えろ!!」
カプソディアは急かす。
「せっかちですねぇ。まあ、簡単に言えば頭と頭がぶつかって、その衝撃で魂が入れ替わった例ですね」
「また頭か……。そう言えば、人間って頭に魂があると思ってるんだったな」
「強いショックか……。具体的にはどうしたらいいんだ?」
カプソディアが首を捻れば、ブレイゼルはさらに急かしてくる。
「ちょっと荒っぽいけど、お互い頭突きをするのは、どうかしら?」
唐突にとんでもない事を言いだしたのはルヴィアナである。
なかなか野蛮な提案に、男性陣は思わず固まってしまった。
「それしか方法がないのでは?」
エリーテは同意するのだった。
30分後……。
魔王軍学校の訓練場に魔族が集まっていた。
歓声と罵声が入り乱れる中心で、お互いの後頭部を取り、睨み合う2人の姿があった。
赤い髪と黒い髪。
ブレイゼルとカプソディアである。
諸肌になった2人の額は、すでに真っ赤になり、流血していた。
すでに意識が朦朧としながら、ブレイゼルもカプソディアも野獣のように息を吐いている。
「どうした、カプソディア。足が笑っているようだぞ。降参するなら早く降参しろ。これ以上、我の顔が傷付くのは好ましくない」
「誰の足がへばってるって? お前の足こそ、俺の気合いにぶるっちまってるじゃねぇか?」
「減らず口を……。よおし! 今1度、我の頭突きを食らわせてやろう!」
「おお! 来いや! いつでも相手になってやる!!」
すでに30回。
2人はぶつかっていたが、未だにブレイゼルもカプソディアも音を上げない。
完全に意地と意地のぶつかり合いになっており、当初の目的も忘れて、ブレイゼルと戦っていた。
そして31回目の頭突きが始まる。
「おおおおおおおおおお!!」
「うぉりゃああああああ!!」
「何をやっとるかあああああああああああ!!!」
突然、校庭に声が響く。
現れたのは、魔族ですら見上げるほど大きなトロルであった。
「げぇ! トロルキング!!」
「筆頭教官だ!!」
「逃げろぉぉおおおおお!!」
集まっていた魔族たちは蜘蛛の子を散らすように、筆頭教官トロルキングから逃げていく。
そのトロルキングは逃げ損ねた魔族たちを遠くへとはね飛ばす。
さらに騒ぎの中心にいたブレイゼルとカプソディアを睨み、大きな手で掴んだ。
「貴様! 何をする! 赤竜族の子息ブレイゼルだぞ! 無礼であろう」
「わっ! 馬鹿!! ブレイゼル! お前、今俺の身体だろうが」
「はっ! しまったぁぁああああああ!!」
「というわけで、筆頭教官の旦那……。俺こそ由緒正しき赤竜族の息子です。どうかお目こぼしいただけないでしょうか?」
ブレイゼルの身体のカプソディアは、和やかにゴマを擂る。
「カプソディア! 貴様、狡いぞ!! それは我の身体だ!!」
「うるせぇ! 俺はな。自分が助かるためなら何だって使う人間なんだ――――よ!!」
言い争う2人を、筆頭教官は合わせて、両手で握る。
「ちょっ! 筆頭教官? 俺――赤竜族……」
「黙れ、ブレイゼル。たとえお前が赤竜族だろうが、指導は指導だ。ていうか、貴様ら……」
授業をサボって何をしてるんじゃああああああああああああああああ!!!!
筆頭教官は振りかぶると、2人は砲弾のように飛び出した。
そのまま軍学校の端まで飛ばされる。そこに地獄坂と呼ばれる本当に黄泉まで届いているという、階段があって、2人はもつれ合いながら転がっていった。
1万段以上下った階段の先で止まる。
黄泉にこそ至らなかったが、2人の上半身裸のままボロボロになっていた。
「ちょ、ちょっと! 2人とも大丈夫?」
「大丈夫ですよ。死亡保険はちゃんとつけておきましたから」
「ゲハハハ!」
そこにルヴィアナ、エリーテ、そして笑いながらヴォガニスが登場する。
エリーテは枝の先でツンツンとカプソディアの頬を突くと、うめき声が聞こえた。
ブレイゼルの方も息があるらしい。
やがて2人は立ち上がった。
「くっそ……。あの教官め。来年職があると思うなよ。赤竜族の名にかけて、クビにしてやる」
とカプソディアの口が悪態を吐く。
「は~あ……。随分ひどい目にあったぜ。危なく黄泉に落ちるところだったぜ」
とブレイゼルがやれやれと肩を竦める。
それを見て、ため息を吐いたのは残りの3人だった。
「やっぱり戻ってないみたいね」
「おかしいですねぇ。階段から2人を落とすと、元に戻るという記載があったのですが……」
「ふざけるな! そんな方法で治ったら、苦労はせん!」
「もう人間の魔導書に頼るのはやめようぜ。これじゃあ、いくら命があっても足りねぇよ」
最後にカプソディアが首を振った。
とはいえ、他に何かいい方法はない。
5人が首を捻っていると、最初にカプソディアが口を開いた。
「仕方ねぇ。こればかりはやりたくなかったが……」
「何か方法を思い付いたの、カプソディア」
「気になりますねぇ」
「とっとと話せ、カプソディア!」
「ゲハハハ……!」
みんなの視線がカプソディアに集中する中、当の本人は頭を掻きながら面倒くさそうにこう言った。
「ルヴィアナの料理をまた食べるんだよ」
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