外伝 Ⅱ 入れ替わってるぅう!⑦

「はーい。お口を開けて~。今度は舌を出して~。そうそう。いやらしく動かして。そう! 最高!」


 淫靡な言葉を恥ずかしげもなく響いている。

 特徴的な銀髪に、褐色肌。

 エルフと同じく尖った耳をした中立種族のダークエルフ。


 エリーテという後に四天王と呼ばれる4人の友達枠のダークエルフは、白衣を着て、今カプソディア(中身はブレイゼル)の口内を覗き見ていた。


「汚いですね。虫歯もありますし、口臭も臭いんで、今度からモン●ミンしてきてくださいね」


「なんだと! 我の口が臭いだと!」


「そうだぞ。ブレイゼルならわかるが、なんで俺の口が臭いんだ。毎日血が滲むぐらい歯を磨いてるわ!」


 カプソディアに入ったブレイゼルと、本人(今はブレイゼルの身体)のカプソディアが総ツッコミする。


 エリーテはぼんやりと2人を眺めてから。


「あっ。N○NI○派でしたか。申し訳ありませんでした」


「そういうことじゃねぇ!」

「そういうことじゃない!」


 2人は同時に叫ぶ。


 どうでもいいことかもしれないが、2人が入れ替わったことによって、どんどん息が合ってきている気がする。


 それはルヴィアナもヴォガニスも認めるところであった。


「つーか、なんでエリーテが軍学校の保健室で、先生やってんだよ!」


「そうだ! 貴様、そもそも我らよりも年下だろう。なんで先生なんてやってるだよ」


「給料が高かったからです」


「欲望丸出しの志望動機をさらっと言うじゃねぇよ。俺らよりも年下のくせに、俺らが学生やって、お前が教師っておかしいだろ」


「そりゃあぁねぇ。甘酸っぱい青春を謳歌してるあなたよりも、私の方が経験値においても、大人の色気においても高いからですよ。ほら、褐色肌の美人お姉さんの白衣ですよ。ムラムラしませんか」


「「「…………(照れ)」」」


 黙って顔を赤くする男性陣を見て、エリーテとルヴィアナはジト目で睨む。


「うわ……。マジな反応やめてくれませんか?」


「さいてー」


「ううううう、うるさい! それよりもなんかわかったのかよ。俺とブレイゼルのこと」


 カプソディアはしどろもどろになりながら、話を戻す。


 ルヴィアナの料理を食べ、魂が入れ替わってしまったらしいカプソディアとブレイゼルは、この謎の現象に対して詳しそうなエリーテのもとを訪ねた。


 何度も言うが、エリーテはダークエルフである。


 ダークエルフは常日頃から争っている人類や魔族に対して中立を宣言し、人類圏にも魔族圏にも存在する。


 そして独自のネットワークを持っていて、なかなか手に入らないような情報すら握っていることがある。


 魔法や不可思議な現象にも詳しいため、4人はエリーテを頼ったというわけである。


「わかるわけないでしょ? こんな現象は初めてですよ」


 エリーテはあっさり匙を投げた。

 だからといって、おいそれと引き返す訳にはいかない。


「解決の方法も思い付かないのかよ、エリーテ?」


「ブレ……じゃなかった、カプソディア。逆に聞きますが、あなたなら思い尽きます? こんな笑える状況……」


「……ねぇな」


「しこたま笑ったあと、この状況を小説か演劇にすればいいんですよ。今、人類圏で流行ってるらしいですし」


「そりゃいいや。ゲハハハハ!」


 ヴォガニスが笑うと、ルヴィアナも含む他の3人が手痛いツッコミを入れた。


 ブレイゼルはヴォガニスを強制的に黙らせた後、唇を噛みしめた。


「ぐっ! ダークエルフでもわからんのか……」


「まあ、現象の説明はなんとなく尽きますよ」


「え? そうなの、エリーテ」


「原因はなんだ?」


「間違いなく、ルヴィアナの料理でしょ」


 さらっとエリーテが暴露すると、後ろの男性陣はうんうんと頷く。


 ルヴィアナは半ば呆然としながら、エリーテに縋った。


「い、いや……。その、でも……料理でそんなことになるなんて」


「あなたの料理は存在自体がオーパーツみたいなものですからねぇ。何が起こっても不思議じゃないのではないでしょうか」


 エリーテ曰く、ルヴィアナの料理を食べたカプソディアとブレイゼルは無事にヽヽヽ死亡。その時、料理の影響か、本当なら天に召されるはずだった魂がお互いの身体の中に戻っていったのだという。


「説明されても意味がわからんぞ、エリーテよ」


 半ば憤然としながら、ブレイゼルは抗議するが、エリーテはただ肩を竦めるだけだった。


「私だってわかりませんよ。ただそうとしか説明がつかないと言っているんです」


「ご、ごめん。2人とも……。私の料理で……」


 ここまで話を聞いていたルヴィアナは力なく声を振り絞る。

 3人の男たちに囲まれていても、その勇猛さは引けを取らない彼女だが、ここまで落ち込むのは、少々珍しいことだ。

 何よりルヴィアナはこの中でもかなり責任感が強い、学級委員長タイプの魔族である。


 たとえ、自分が意図しない効果が料理に現れたとしても、責任を感じずにはいられなかった。


 落ち込む仲間を見て、カプソディア、ブレイゼル、ヴォガニスの3人はアイコンタクトを取る。


 すると、ルヴィアナの背中を叩いた。


「ちょっ! 何をするのよ」


「ゲハハハ! そんなに落ち込むなよ。オレ様は楽しんでるんだから」


「ルヴィアナに落ち込んだ顔は似合わない。さあ、笑ってくれ」


「世界の終わりみたいな顔するなよ。何とかなるさ。今までそうしてきたんだからな、俺たちは」


「ヴォガニス、ブレイゼル、カプソディア……。ありがとう」


 ルヴィアナは少し泣きそうになりながら、感謝の言葉を告げる。


 ヴォガニスも、ブレイゼルも、カプソディアも、照れくさそうに笑っていた。


「まあ、方法がないわけじゃありません。魔族に例はないのですが、人間にはたまに起こることのようです」


「人間に?」


「へぇ……」


「それはどういう方法なのだ、エリーテ!」


「そういうことは早く言えよ」


 4人は翻って、エリーテに殺到する。


「人間の解決方法ですよ。あまりお気に召さないかと思って」


「この際、人間だろうと神だろうとなんでもいい。この状況を解決できるならな!」


「それで? どんな方法なの、エリーテ?」


 ルヴィアナはエリーテに鼻先まで近づいて詰問する。

 その圧力を冷静に躱しながら、エリーテは指差した。


「ブレイゼル」


「なんだ?」


「カプソディア」


「おうよ」


「2人で…………」



 キスをしなさい。



~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~



コミックス5巻のご予約もよろしくお願いします。

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