外伝 Ⅱ 入れ替わってるぅう!⑥

コミックス5巻ご予約お願いします。

表紙は性悪ダークエルフさんこと、エリーテです。


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「はああああああああ!? カプソディアとブレイゼルの人格が入れ替わったぁぁぁぁああああ!!!!」


 短い期末休暇明け……。

 結局、それぞれの自宅で寝て過ごすことになったカプソディアとブレイゼルは、人格が変わったまま魔王軍学校に戻ってきた。


 2人の人格が入れ替わっていることを今知ったルヴィアナは、2人を見比べる。


 姿こそ変わらないのだが、いつもと様子が違うことにはすぐに気づいた。


 カプソディアがブレイゼルのようにふんぞり返り、逆にブレイゼルがカプソディアのように猫背になっていたのである。


 姿は一緒でも、まるで印象は違う。

 嘘を言っているようには思えなかった。


「グハハハハハハハハ!! なんだ、それ。めっちゃおもしろ!!」


 お腹を抱えて笑っているのは、ヴォガニスである。

 半ば涙を流しながら、「人格が変わった」とのたまう2人を指差し、爆笑していた。


「ヴォガニス、笑わないの! 大変なことよ、これって!」


「笑いごとじゃねぇんだよ。俺は一刻も早く自分の身体に戻りたいんだ!」


 ブレイゼルの身体で、カプソディアがぶち切れれば……。


「カプソディアの言う通りだ。こんな死肉臭い身体……。我の魂が穢れてしまう」


 カプソディアの身体で、ブレイゼルはカプソディアを卑下する。


「なんだと、ブレイゼル!! 俺の身体のどこが死肉臭いんだよ。いつお前らが死肉臭いって言った? 嘘を吐くな」


「ならば、お前の腸が腐っているのだろう。我の魂が汚染されていく一方だ」


「おお! おお! 言ってくれるじゃねぇか、ブレイゼルさんよ。そっちがその気なら、こっちにもそれ対応ってもんがあるぞ」


 すると、ブレイゼルの身体に入ったカプソディアはおもむろに鋏を持ち出す。


 ブレイゼルの髪を掴んで、そのまま鋏を当てた。


「き、貴様! 何をする!!」


「お前が毎日執事の爺さんに朝シャンしてもらってるこの綺麗な髪を、切っちまおうかなあ」


「ブレイゼルって執事に毎朝髪を洗ってもらってるのかよ? 子どもか、ゲハハハハハハ」


「朝シャンって……。どうりで綺麗だと思ったら……」


 ヴォガニスは笑えば、ルヴィアナも驚いていた。


 一方、カプソディアの身体をしたブレイゼルはお冠だ。


「なっ! 卑怯だぞ!! 我の髪を1本でも切ってみろ。お前の身体を火葬してやるからな」


「はっ! 今、俺の身体に入ってるのは、お前だぞ。わかってんのか? お前が死ぬぞ」


「我の髪を切られるよりマシだ。というか、お前こそこのまま我の身体のままで生き続けるつもりか?」


「ぐっ!」


 珍しく痛いところを突かれ、カプソディアはブレイゼルの顔のまま表情を歪める。

 それを見て、ブレイゼルはここぞとばかりに畳みかけた。


「そもそもお前の家の妹はなんだ? 『5日間も看病してやったのに、心配して損したわ!』とか兄に対する敬意の欠片もなかったり、『別にお兄ちゃんのためにおかゆを作ったわけじゃない。残り物よ、残り物!』と我にご飯の残り物を与えたり。我は奴隷ではないのだぞ!!」


「人んの妹をディスってんじゃねぇよ。お前の家――はともかく、部屋は問題だらけじゃねぇか! なんだよ、あの気色の悪い、どう見ても盗み描いたようなルヴィアナグッズは!」


「なっ! 貴様! 我が自作したルヴィアナグッズに、その汚らわしい手で触れたのではないだろうな」


「アホ! 嫌でも触るわ! なんせベッドの横にルヴィアナの抱き枕があったんだから。汚らわしいのはお前の性根の部分なんだよ!?」


「なん――――」


「ああ! もううるさい!!」


 お互い入れ替わったままでつかみ合いの喧嘩になると、ルヴィアナは一喝した。


 無意識なのか、ルヴィアナの魔力が高まり、風が逆巻く。

 その美しい髪とともに、ガラスや机が吹き飛ばされた。


 周囲の状況などまったく気にせず、ルヴィアナは2人を睨む。


「今は争っている場合じゃないでしょ? それともあんたたちは自分の身体を傷付けるのが趣味ってわけ?」


「「うっ……」」


 2人は気まずそうに項垂れる。


 すると、ルヴィアナは大きく息を吐いた。


「まさかこんなことになってるなんて。心配して何度かお見舞いに行ったのだけど、カプソディアの方では妹ちゃんに、ブレイゼルの方では執事さんに追い返されたのよね」


 ルヴィアナは当時を振り返る。


「ほら、見ろ。お前の妹はどこかおかしいのだ。ルヴィアナが見舞いに来たのに追い返すなんて」


「人のこと言えるのかよ」


「ゲハハハハハハハ!」


 ブレイゼルとカプソディアがいがみ合い、ヴォガニスが笑っている横で、ルヴィアナは首を傾げる。


「何がおかしかったんだろう。ちゃんとお見舞いの品として、私が作ったロールケーキを――――」


「「「それが一番ダメなんだろうが!!」」」


 カプソディア、ヴォガニス、そしていつもはルヴィアナの擁護に回るブレイゼルですら、同時に突っ込んできた。


「お前が妖気の漂う粗品を持ってきたら、そりゃ毒だと勘違いして追い返すわ。妹グッジョブだわ!!」


「ゲハハハ! 腹いてぇ!」


「う、うむ。ルヴィアナ、今回ばかり擁護のしようがないぞ。というか、何故お見舞いに自作のロールケーキなのだ? 普通は果物とかだろう。まあ、ルヴィアナがくれるものなら、我は何でも受け取るがな」


「何よ。悪かったわね、礼儀がなってなくて。お母さんが持っていけってうるさかったのよ」


(((大精霊様、なんてことを!!)))


 男性陣の頭の中で、ニコリと笑った大精霊の顔が浮かぶ。


「ゲハハハ! つーかルヴィアナ、お前……ブレイゼルとカプソディアがこんなことになってる原因について、まだ気づいてないだろ?」


「はあ? 原因?? なんのこと?」


 ルヴィアナは首を傾げる。


 カプソディアはブレイゼルの表情でやれやれと首を振り、カプソディアの身体のブレイゼルは顔を手で覆う。

 引き続きヴォガニスは笑うと、ずばり言った。


「どう考えても、こんなわけのわからんことになってるのって、お前の料理しか考えられないだろう」

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