外伝Ⅰ 青春時代が現実なんて⑥

昨日、発売された単行本3巻はゲットできましたでしょうか?

あらぶる聖女のポーズが目印ですよ。

よろしくお願いします。


~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


 こ、こえぇ……。ルヴィアナさん、こえぇ……。


 しかし、これはまだ序章に過ぎなかった。


「でも、あいつ……。なんであんなに――――」


「なあ、カプソディア。あの試験官、ルヴィアナの方を見て、なんか好色そうな顔をしてたよなあ」


 突如、暗い顔をして現れたのは、ブレイゼルだった。


 しかも、いきなり現れて尋ねる言葉じゃねぇ。


 なんだよ、好色そうな顔って。


「いや、た、確かにルヴィアナの胸がどうこう」


「……………………許さぬ!」


 なんか変なスイッチが入ったらしい。


 赤い髪が怒髪天を衝くかと思った瞬間、ブレイゼルの身体から炎が噴き出した。


 それはもうルヴィアナの竜巻どころではない。


 ただ立ってるだけなのに、全身の水分が奪われていく。


 強烈な業火だった。


 ブレイゼルは手を掲げると、その炎を1点に凝縮する。


 まるで太陽がすぐ側にあるかのようだった。


「ちょ!! おい!! ブレイゼル、それはやりす――――」


 試験官を睨め付けると、ブレイゼルは迷わず撃ち抜いた。



 赫竜の砕牙ドラゴニア・フレイム!!



 真っ白な光に覆われる。


 俺は瞼を閉じた。眩しいからではない。そうしていないと、眼球の水分がすべて蒸発していくからだ。


 俺たちがその瞬間やれることは、ただとてつもない量の熱を耐えきることだけだった。


 音が収まり、ようやく瞼を開ける。


 視界に広がっていたのは、半ば意識を失いかけている試験官と、隕石が激突したみたいな巨大なクレーターだった。


 生物、いや無機物ですら溶けかかり、正常な状態とは言いがたい。


 無論、的もまともなヽヽヽヽ状態ではない。というか、欠片もなかった。


「ふん。これに懲りたら二度と色目など使うな」


 試験官は小便を垂らしながら、意識のない状態。


 試験会場は無茶苦茶。


 こうなると怒るのは、同じ受験生の魔族たちだった。


「おい! てめぇら、なんてことしてくれたんだよ」

「むちゃくちゃじゃねぇか!」


 俺とルヴィアナ、ブレイゼルを見て、抗議の声を上げる。


 いや、気持ちはわかる。というか、俺も同じことを言いたかった。


 お前ら、なんつーことをしてくれたんだよ。


 俺が首を捻るが、2人ともどこ吹く風だ。


 こうなったら後は頼れるのは、ヴォガニスぐらいなものだ。


「ヴォガニス! お前、まともだよな」


「ああ! くっつくなよ、最低順位野郎!!」


 相変わらず可愛げがない。


 くそ! こいつ、俺が勉強を教えてやったことをもう忘れてやがる。


 すると、また別の野次が飛んだ。


「なんだ。あの禿げって、仲間なのか?」

「そう言えば、仲睦まじそうだったぞ」

「じゃあ、あの禿げも弱いのか」

「弱者は引っ込んでいれば――――――」



 深海穿孔す暗闇の腕ダイタルウェーブ!!



 突然、ぷっつんしたヴォガニスは得意技を披露する。


 先ほどまで喚き散らしていた受験生たちを全部巨大な津波によって流されていった。


 もう試験会場には俺たちしかいない。


 な、なんだよ、この状況。


 つーか、今日の俺の幼馴染みたちおかしくない??


 普段からよく分からんことが多いが、今日はいつにも増して……。


「はっ! そうか! お前ら、不甲斐ない俺が馬鹿にされているのを見て、怒ってくれたのか」


 へへへ。なるほどな。普段では俺を馬鹿にしてばかりだけど、いざとなったら俺のことを助けてくれる。それが幼馴染みってヤツだよな。



「はあああああ!! そ、そそそそそんなわけないでしょ! 誰があんたに同情して」


「誰がお前のために怒ったりするものか。我の怒りは我のものだ」


「てめぇと一緒にするんじゃねぇぇええええええ!!」



 めっちゃ怒られた。


 3人は俺を置いて、その場を後にする。


「ちょ! お前ら、待てよ!!」


 この試験会場、どうするんだよ!!!!!!!!!





 後日談――――。


 更地になってしまったという試験会場に、1人の魔族が現れた。


 その魔族に正確な形はない。


 というより、見えないのだ。あまりに禍々しすぎて、光すらその存在を拒んでいた。


 瘴気が黒い霧のように常時立ちこめており、その存在を隠しているのである。


 確認できるのは、不気味に光る赤い目だった。


「いやはや、報告では聞いていたけど、ひどい有様だね。まあ、赤竜族と風の魔精霊が暴れれば、仕方ないか。でも、予想以上だ。……ふふふ。嬉しいねぇ。今年の受験生は活きがあって大変よろしい」


 周辺をしばらく歩いていると、魔族はピタリと止まった。


 何かを見つけ、指で摘まむ。


 拾い上げると、それは蠅であった。


「ん? これ、タダの蠅じゃないね。多分、使い魔の一種だ。しかも、大魔法使いクラスの。結構、頑丈にできているね。このボクでも壊すのには、骨が折れそうだ。なのに、魔力が抜けてる。完全にだ。一体誰がこの蠅を殺したんだろうね」


 魔族はあっさりと【鑑定】魔法を構築すると、もっと詳しく蠅を調べた。


「ふーん。カプソディアくんね。ああ。彼、亜屍族デミリッチなのか。あれ?? この子、随分と珍しい亜屍族デミリッチだね。ていうか、この顔見覚えがあるわ。そうか」



 ……まだ生きてたんだ。



「いや、彼は生きているけど、亜屍族デミリッチだから死んでいるのか? まあ、どうでもいいや。彼にはもう少し働いてもらおう。カプソディアなら、ボクのわがままにも付き合ってくれそうだ」


 濃い瘴気で何も見えない。


 しかし、その奥で魔族は笑ったような気がした。


「さて、そろそろ玉座に帰らないと……。クランベルに怒られてしまう」


 魔法陣が現れた瞬間、魔族は魔族領の空気の中に溶け込むように消えてしまう。




 その後、ルヴィアナ、ブレイゼル、ヴォガニス、そしてカプソディア全員の軍学校の合格が決まったのだった。

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