外伝Ⅰ 青春時代が現実なんて⑤
本日、『「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になる』の単行本3巻まで発売することができました。
書店で見かけたら、是非お買い上げ下さい。
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プーン……。
「捉えたぞ! そこか!!」
俺は振り返る。
視線の先にあったのは、今俺が倒そうとしていた的だった。
そのど真ん中で前肢をこねこねさせていたのが、件の宿敵であった。
「よう、3日ぶりだな……」
的に止まった蠅を睨み付ける。
俺の殺気を受けても、ヤツは平然としていた。
だが、俺にはわかる。ヤツの複眼は間違いなく俺を捉えている。
そして俺を誘っているのだ。「来いよ」と……。
良かろう。思う存分、
「ちょっと! どうしたの、カプソディア!? いきなりそんなに殺気を高めて」
「ルヴィアナ、少し黙ってくれないか。俺は今、真剣なんだ」
「え? この試験にそこまで?? わ、わかったわ。……その、が、頑張ってね、カプソディア」
「ああ。任せろ」
黒いローブを靡かせる。
その俺の背中を見ながら、ルヴィアナは呟いた。
「やっぱり……。カプソディア、何か変だわ。そう思わない、ブレイゼル」
「あいつがおかしいのは、いつものことだ」
「かっかっかっ! その通りだぜ、ルヴィアナ」
ルヴィアナの心配を余所に、俺は構えを取る。
指先を的の中心に向けて、魔力を込めた。
お前、死ね……。
試験会場はしんと静まり返る。
その中で俺は、宿敵が的からはらりと地面に落ちる音を聞いた。
「やった! やったぁぁぁぁあああああ!!」
俺は飛び上がった。
やったぞ! ついに宿敵を倒せた。
あれ? でもおかしいなあ。あいつらには何故か死属性魔法が効かなかったから、いつも苦戦していたのに。
今回は効いたぞ。
もしかして、俺――
いや~、まあ自分で言うのもなんだけど、やる時はやる男だと思っていたよ。
あ。そう言えば、ルヴィアナ。その他の観衆たちよ。
俺の新たな歴史の幕開けを見てくれたか?
ニコニコしながら、俺は振り返る。
「「「「ぶはははははははははははは!!!!!」」」」
試験会場は大爆笑に包まれていた。
涙目になったり、地面に手を突いて、笑っているヤツらもいる。
俺を指差し、「馬鹿だ、こいつ」と罵る者すらいた。
へ? あれれれ?? どういうことだ?
なんだ、このリアクション。喜んでくれている? 訳ねーよ。
馬鹿にされてるんだよ、俺。
そして、それは犀頭の試験官も同様だった。
「随分と雰囲気を出すから、何をするのかと思ったら、的に当てるどころか、指を構えただけではないか? なんだ、貴様? 人間で言う『中二病』とか言うヤツなのか? ぶははははは! 『お前、死ね』って言って、的が壊れたら世話ないわ。馬鹿なのか?」
し、し、しまったぁぁぁぁぁあああああああ!!
的を狙うつもりが、蠅を狙っちまった。
やべーよ。完全に頭が血が上って、試験のことをすっかり忘れていたぜ。
しかも、試験官の馬鹿野郎。今の試技だと思ってやがる。
違う。これは全然違うんだ!!
だが、遅かりしだ。
会場全体が笑いの渦に包まれていて、「もっかいやらせて下さい」って土下座で頼んでも、スペシャルチャンスをもらえそうにない。
やべー。俺、このままじゃ試験に合格できないじゃねぇか。
俺はがっくりと項垂れる。
地面に手を突き、「詰んだ」と奥歯を噛みしめた。
「うるさいわねぇ。黙ってなさい、次は私なんだから」
ふわりと良い香りが側を駆け抜けていく。
同時に風が大きく逆巻いた。
「カプソディア、あなたはよく頑張ったわ。こんなくだらない試験でも、真剣にやる。その気持ちは大事ですものね」
「へ? ルヴィアナ??」
あいつ、何を臭いことを言ってるんだ??
俺は試験の所定位置に付こうとしているルヴィアナを見送る。
「1つ。言っておくわ。真剣にやってる人を、笑うヤツが私一番嫌いなの」
何故か、すっごく怒っていた。
あ、あの……。ルヴィアナ…………さ……ン…………??
ルヴィアナの風が強くなると、その美しい髪が逆巻く。
幼馴染みの怒りは、試験官にもぶつけられる。
「たとえ、それが試験官だろうとね」
「なんだ、お前は? 子どもの割りにいい乳をしやがって」
犀頭の試験官は鼻の下を伸ばす。
好色そうな顔を蹴飛ばすように、ルヴィアナの風が大きく、そして強く逆巻いた。
「あの的に当てればいいのよね」
やばい!! ルヴィアナ、なんか知らんが完全にプッツンしてやがる。
逃げろ――と注意する前に、ルヴィアナの手から渾身の一撃が放たれていた。
逆巻いた風は竜巻となって、試験会場を襲いかかる。
しかもそれはタダの竜巻ではない。
巻き上がったゴミや小さな石ころ、あるいは砂粒。それが風に掻き回されて、加速する。
できあがったのは、巨大な
「ひぎゃあああああああああああ!!」
それを察した試験官が逃げていく。
しかし、竜巻に弾かれた石やゴミが襲いかかり、気が付けば試験官はズタボロになっていた。
小さく栗鼠のように縮こまりながら、震えていたのは試験官の前に立ちはだかったのは、ルヴィアナだ。
「これに懲りたら二度とカプソ――じゃなかった。ごほん! 真剣に試験を受けてる魔族を馬鹿にしないことね」
「わ、わかりました。ご、ごごごめんなさい」
最後には、試験官に土下座させるのだった。
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