外伝Ⅰ 青春時代が現実なんて④

明日、コミックス3巻が発売されます。

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~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


 おのれ、ふざけるなよ、筆記試験。


 何が悲しくて、アンケートみたいな回答をしなくてはならんのだ。


 しかも、問題で引っかけってなんだよ。


 まるで考えたヤツが馬鹿みたいじゃないか。おかげで筆記試験の半分もできなかったわ。


 一番ツッコみたかったのは、問5だわ。



 問5

「魔王様の長所は何?(複数回答可)」



 ふっっっっっっっざけんなよ!


 無礼を承知でいうよ。問題を作った魔王様よ。


 試験で自分の好感度調査みたいなことをするなよ。


 そんなことしなくても、あんたは大人気だよ。


 死ねと言われれば、単騎で人類にツッコんでいく馬鹿ばっかりだよ、魔族は。


 そもそも「複数回答可」ってなんだよ!


 これは試験なんだよ。筆・記・試・験・!


 回答が複数あってたまるかよ、こんちくしょー。


 しかも、散々にツッコませた挙げ句に――――。



 問6

「そこまで怒らなくてもいいじゃないか」



 何を半分キレてるんだよ。


 キレたいのこっちだっての!!


 つーか、問題すらないじゃないか。


 これをブレイゼルやルヴィアナが真顔で答えているのを想像して、ご飯十杯ぐらい食べれそうだわ。


「あー、もー。やだ。忘れよう、筆記試験のこと」


 筆記試験は最悪だが、幸い挽回できない順位じゃない(前回ヴォガニスが言ったのは、幼馴染みの中で最弱ということ)。


 実地試験で、名誉も実力も挽回しなければ、このままでは不合格になってしまう。


「そんなことにでもなったら…………」



ブレイゼル

「ふん。貴様一人だけ不合格だな。我ら幼馴染みの面汚しめ」


ヴォガニス

「ぷぷ~。カプソディアくん、あんなに勉強して落ちるんですか。ぷぷ~」


ルヴィアナ

「失望したわ、カプソディア」



「ぎゃあああああ! ダメ! それだけはダメ!!」


 くっそ! 意地でも満点取ってやるぞ。こんちくしょー。




 早速、試験官が実地試験の説明を始めた。


「あそこにある的があるだろ。どんな方法でもいいから、的をぶっ壊せば実地試験は合格だ」


 はあ? なんだよ、それは。


 よく観察したが、普通の木の的が少し離れたところに置かれているだけだ。


 あんなのいくらでも壊せるだろう。


 魔族を舐めてるのか?


 てか、的に撃ち放っただけで実力の一体何がわかるってんだよ。


 せいぜい射撃能力ぐらいだろう。それで的に当たったら、合格って……。


 筆記試験もそうだったけど、温すぎないか(筆記試験ボロボロだった俺が言うのもなんだけどな)。


 実際、受験生たちからも不平不満があがった。


「へいへーい。試験官さんよ」

「こんな試験で何がわかるんだよ」

「子どもでもこんな試験を合格できるぜ」


 野次が飛ぶ。まあ、こうなって当然だわな。


「黙れ、ひよっこども……」


 犀顔の試験官が凄むと、一気に空気が重くなる。


 さっきまで野次を飛ばしていた魔族が、一瞬にして黙ってしまった。


 すげぇ。これが大人の魔族の貫禄ってヤツか。


「オレだって言いたいわ。こんな試験、一体何が役に立つかってな。だが、お前ら……。耳の穴かっぽじって聞け。実はこの試験はな。人間どもがやってる試験を真似たものだ」


 はああああああ???


 敵側の試験を真似たって。何を考え――――いや、待てよ。


 俺は少し冷静になりながら、考える。


(人魔大戦は最初こそ俺たち魔族が優勢だったが、最近人間たちは非常に勢い付いていると聞く。各地に隠れていた希有な才能を持つ勇者たちの頭数が揃ってきたからだという意見もあるが、もしかしたらこのような試験を行うことによって盛り返してきたかもな)


 いっちょやってるみるか。


「まずは俺が行くぜ」


 最初に手を上げた。


 まあ、こういうのは様子見をしてからというのが定番ではあるし、普段の俺ならそうしただろう。


 だが、今の俺は四面楚歌。大ピンチだ。


 少しでも試験官の内心をよくするためにも、ここは1番先にやらせてもらうぞ。


「ほう。良かろう」


「よし」


 他に続くヤツもいなかったので、俺であっさりと決まる。


 指定位置に立って、俺はちょっと首を捻った。


「そういや、どうやって的に当てようか?」


 特に方法は決められていない。各々に委ねられていた。


 的を当てるだけなら、石投げるだけでも当たるぐらい近い距離だ。


 俺の肩の強さを見せつけるのもいいだろう。


 弓もまあ、それなりやって来たから弓でもいいが、俺の手元には弓も矢もなかった。


 他色々と考えたのだが、結局俺は石を投げて、的をぶっ飛ばすことにした。


 そこらの石を拾い上げた瞬間、俺はある音を捕らえる。



 プーン……。



 俺は思わず拾い上げた石を取り落としてしまった。


 これは由々しき事態だ。まさかヤツが近くにいるとは。


 しばし耳を澄まし、そいつの居場所を探す。


 すると、痺れを切らした犀頭の教官が俺を怒鳴り付けた。


「おい! お前! 何をしているんだ! とっとと的に当てろよ!!」


「お前は黙ってろ……」


 俺は殺気と怒気を綯い交ぜにした気迫を、そのまま教官に叩きつける。


「す、すみませ~~ん」


 急に犀頭の教官は縮こまってしまった。


 それを横目で見ながら、俺はヤツは探す。


 見つけてしまった、俺の宿敵。


 いや、亜屍族しゅぞく最大の怨敵と言っても過言ではないだろう。


 そいつの名は「蠅」。


 死と生の狭間にある我ら亜屍族デミリッチの長年に亘る宿敵である。


 香水を変えようが、皮膚の変えようが、まるで魂の匂いでもわかるかのようにヤツらは我ら亜屍族デミリッチにたかってくる。


 しかし、今日もそれは終わりだ。


 今日こそはぶちこんでやる。お前を地獄にな。


 さあ、出てこい!! 蠅!!!

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