重版決定記念!
おかげさまで、『「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になる』のコミックスが重版決定いたしました。
お買い上げいただいた方ありがとうございます。
些細ではありますが、特別SSを書かせていただきました。
楽しんでいただければ幸いです。
ちなみに9月8日には、単行本4巻が発売となっております。
ご予約よろしくお願いします(表紙はあの変態です)
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「ふざけるなぁぁぁぁああああ!!」
その声は訓練生が集う魔族の食堂で響き渡った。
食堂の風景は、人間のそれと変わらない。
ただ角や尻尾を持つ魔族に置き換わっただけで、みなが列を作って配膳を待っていた。
テーブルに着き、いざ飯を食べようとした魔族の手から、今日のメインコウモリドラゴンのごちゃ混ぜハンバーグがこぼれる。
その視線はテーブルを挟んで相争う2人の訓練生に向けられた。
1人はルビーを思わせるような赤髪に、鋭い金色の瞳。
もう1人は如何にも幸薄そうな根暗な男である。
訓練成績№1のブレイゼルと、訓練成績№2のカプソディアだとわかると、魔族たちは何事もなかったかのようにご飯を食べ始めた。
「ちょっと! 何をやってるのよ、あんたたち!」
やってきたのは、ルヴィアナだ。
テーブルを挟んで、共に猛犬のように睨み合う2人の仲裁に入る。
ちなみに近くにはヴォガニスが楽しそうに喧嘩する2人を呷っていたが、ちょっと影が薄かった。
しかし、ルヴィアナが仲裁に入っても、2人のいがみ合いは納まらない。
まあ、いつものことであった。
「何を考えているんだよ、ブレイゼル!! あり得ない!!」
「貴様こそ何を考えているのだ。無礼者め! 恥を知れ!!」
一触即発の様子である。
このままで2人ともキスをして、幸せな結婚という運びになりそうだと思ったり思わなかったりしたルヴィアナは2人の間に割って入る。
「いい加減にしなさい! また教官に怒られるわよ。もうすぐ夏期休暇だっていうのに! 休暇を反省文を書く時間にしたいわけあんたたち!」
ルヴィアナが「夏期休暇」という珍しい単語を出して、ようやく2人は戈を収めた。
体育会系120%の魔族にしては珍しく、訓練生には夏期休暇が儲けられている。
ただし期間は3日だけ。故郷が遠い魔族にとっては、移動だけで終わってしまうが、貴重な3日間ではある。
「喧嘩の原因はなんなのよ?」
「聞いてくれ、ルヴィアナ! こいつがあり得ないことを言い始めたのだ!」
先手を取ったのは、ブレイゼルであった。
ビシッとカプソディアを指差し、糾弾する。
「カプソディアが何を言ったのよ?」
「この馬鹿! アーリマンの目玉焼きには塩胡椒が最適だというのだ!!」
「………………はっ!!」
「アーリマンの目玉焼きに、たかが塩胡椒などあり得ん。料理人と食材の冒涜だ。かくなる上はカプソディア。その塩胡椒のように塩辛い魂と一緒に、ここで貴様を燃やし尽くしてくれるわぁ!!」
ブレイゼルは手を掲げる。
真っ赤な炎が食堂の天井を突き破った
色々な破片が落ちてくる。
訓練生たちは慣れているのだろうか。
そそくさとトレーを持ち上げ、その場から離れて行った。
「や、やめなさいって!! 何を考えているのよ、ブレイゼル」
「止めるな! ここで介錯してやるのが、腐れ縁の誼だろう」
「落ち着きなさいって。そもそもカプソティアは
「ぐぐぐぐぐ……」
「かっかっかっ……。ルヴィアナの言う通りだぜ、ブレイゼル。それにな。俺からすれば、お前の方こそあり得ないぜ。お前の方こそ、アーリマンに謝れ」
「一応訊くけど……。ブレイゼルはなんて言ったの?」
ルヴィアナが質問すると、カプソディアは肩を竦め、やれやれと首を振った。
「こいつ、さっき食堂のオバちゃんになんて言ったと思う? 『なまけモンキーの脳醤油はないのか?』とか言ってたんだぜ。馬鹿だろ」
「なんだと! アーリマンの目玉焼きといえば、醤油! 複雑なコクと苦みの中に感じる微かな甘み……。それがアーリマンの目玉焼きとマリアージュする喜び! それがわからぬか、このド庶民め!」
「ああ。そうだよ。俺んちド庶民もド庶民だ。毎日ちゃぶ台で飯を食ってたもんだ。けどな。うちにアーリマンの目玉焼きを醤油で食べるなんて馬鹿はいなかったね」
「我が家にもいなかったわ。塩胡椒なんてかける愚か者はな。……アーリマンびっっくりして起きてしまいそうだ」
「んだと……!」
ついにカプソディアまでその気になる。
人差し指をブレイゼルに向けた。
「来い! カプソディア、チリ1つ残さず燃やし尽くしてくれるわ!!」
ブレイゼルもついに炎の矛先をカプソディアに向けた。
一触即発の空気が流れる。
「いい加減にしなさぁぁぁぁぁあああああいいいいい!!」
叫んだのは、やはりルヴィアナだった。
「何がアーリマンの目玉焼きよ! 塩胡椒よ! なまけモンキーの脳醤油よ!!
あんたたち馬鹿じゃないの?」
両方を睨む。
ルヴィアナの迫力に、カプソディアも、ルヴィアナも黙る。
「前から思ってたけど、アーリマンの目玉焼きなんてよく食べられるわね。信じられないわ。それに塩胡椒はどうでもいいけど、なまけモンキーの脳醤油って聞くだけ気持ち悪いわよ」
「…………」
「…………」
「2人とも舌が馬鹿になってるわね。もうちょっとまともなものを食べなさいよ。たとえばほら……。マンドラゴラの悲鳴を聞いたリカントの脇の肉に、ポイズンドラゴンの毒とトロルの脂で作ったソースとか最こ――――って、あれ? 何? あんたたち? すっごい顔で睨んでくるけど。私の顔になんか付いてる?」
それまで諍いあっていたカプソディアとブレイゼルは、顔を見合わす。
そこにヴォガニスも加わる。
男衆3人は心を1つにし頷ぎ、ビシッとルヴィアナを指差した。
「「「
激昂する2人だったが、3人ともに「このメシマズヒロインが!!」という言葉だけはぐっと堪えるのだった。
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もしよろしければ、最近新作を書いております。
『王宮錬金術師の私は、隣国の王子に拾われる ~調理魔導具でもふもふおいしい時短レシピ~』というお話です。調理魔導具を作っておいしい時短レシピを食べようというお話になっておりますので、
是非読んでみて下さい。
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